小説

SC F
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嵐が去った直後の一悶着



夜空の彼方に消えていくパテル=マテルを見送る王都波止場。

見上げた先に彼女の姿は無い。
微かに瞬いている星は、いつも見ている星空よりも空に浮かぶ数は少ない。

まぁここが波止場で街灯の多い場所であるため、
星の数が見えない理由については然程難しくない。

・・・いくつかの方向から突き刺さる視線に、
視線を落として、微かに眉を寄せた。


「さて、話を聞かせてもらおうか、フィアナ」


背後から聞こえたアガットさんの鋭い声。
周りの何人かは明らかに反応を示して、視線を私に向けた、気配がする。

振り返った先に立つ赤髪と怪訝そうなその表情。
初心者にでも分かりやすく放たれている警戒心に小さく眉を顰める。


「あの回答とやり取り見てりゃ、何かしら繋がりがあるのは明白だろ」
「ちょ、ちょっとアガット!?」
「それとも、アイツみてーに全部伏せていたっつーオチか?」


容赦なく敵意強い発言に、エステルちゃんが制止を掛けるように言葉を挟む。

鋭く突き刺さる視線に、見つめ返すように。
少しだけ息が詰まる。 だから不都合だった。

自分が1から説明すれば、ここまでこじれなかったかもしれないのに。
中途半端なネタバラしが、一番挽回しづらいんだ。


「・・お言葉ですがアガットさん。 敵方とも知れぬ相手から
 話を聞き出す気でいて、信用するつもりは全く無い・・・
 それは少々尋問には向かないと思いますが?」

「・・・本当のことを言うとは限んねーだろ」
「そういう懸念を持つ限り、私は絶対に口を割りません」
「・・・・」
「自分で言うのもなんですが、意志は固い方ですよ」


追撃一言。

街灯に照らされている、とは言え明かりは心もとない。
ただ暗がりながらでも彼が口を閉ざし、眉を寄せたのが分かった。

その様子をじっと見つめて、 ・・小さく笑う。


「・・『フィアナならやりかねない』、そう思ってくださったなら充分です。
 冗談ですよ。 ・・・半分は」


付け足すように呟いた言葉を、彼は繰り返すように「半分は」と呟いた。

私の少し離れた先に居たエステルちゃんが「フィアナさん」と私の名を呼ぶ。
そちらを向いた先に、心配そうに揺れるオレンジがかった茶色の瞳。


「あの、フィアナさん」
「はい」
「変な、質問なんだけど」
「うん」

「私、本当にフィアナさんのこと、信じていていい?」


懇願、に似ていた、と思った。

祈るように確認する言葉は、彼女の心理もなんとなく伺える。
まだ何か言いたげに開きかける口を見て、自らの口を噤んだ。


「だって、どうしてもフィアナさんそんな人に見えない・・っていうか、
 行動とか、言動とか、全部偽りにはどうしても思えなくって」
「うん」
「信じたい、んだけど ・・今レンのことがあったばっかで
 その・・若干疑心暗鬼みたいに・・なってて・・・?」
「はい」

「レンも、フィアナさんの言うことは鵜呑みにしていい、とか言ってるけど
 正直アレがあった後で鵜呑みはしづらいっていうか」
「まぁ、タイミング最悪でしたね。
 私も不本意ですし、実はちょっと参ってます」


申し訳なさそうに言葉を続けるエステルちゃんに、眉を寄せて苦笑い。

なんだかんだ一番不本意なのは恐らく私だと思うんですよ、これ。
いや、いずれ通る道なんだろうけど、もうちょっと、こう・・・

だから、私伏せて・・・
嗚呼、考えれば考えるほど少々ヘコむ。

一瞬目を伏せ、少し吐き出した息。


「・・信じたい、と思ってくださるなら、信じてください。
 伏せていたのは確かですが、嘘は付いていません」


そう告げると、彼女は少し安堵したような表情を浮かべた。

エステルちゃんの後ろから、シェラさんが彼女の肩に優しく触れて、
落ち着いた表情で私を見つめて、口を開いた。


「執行者でなく、兵士でもないというのは聞いたわ。
 そうなると、貴女は具体的には結社の何に当たるのかしら?」
「・・・居候、でしょうか」
「居候」
「居候?」

「ほら、こんな反応されるから言いづらいんですよ」


浅く息を吐きながら、アガットさんを横目に見る。
彼はまたさっきとは別に、呆れ半分のような怪訝そうな表情だ。

波止場に集まってる遊撃士や、親衛隊の人達を一通りぐるりと見渡す。


「・・結社とは関わっています。 執行者の彼らの元で日々を過ごしました。
 それと同時に居候の身、結社とは全く関係ない部外者でもあります。
 計画の存在は知っていますが、詳細や全貌はほぼ無知です」


静寂訪れる夜の波止場。
波の音が微かにこの場に響く、

数名は顔を合わせ、どうやら審議中のようだった。


「伏せていたのは本当です。 結社を追う貴方達の邪魔になると考えたから。
 それが許された身でもないし、出せるような情報も持っていないので。
 ・・・雑音は聞こえない方が、集中してもらえると思ったんです」


一頻り悩む面々の表情を見ながら、浅く息を吐く。
予想以上にやりにくいことになってしまった。

・・・少々しんどいな。
離宮を巡って若干彼と言い争った時よりも精神ダメージが大きい。


「・・理解が得られないようなら、戻ろうかと思うのですが」
「戻るって・・・結社にか?」
「はい、そのつもりで。 ・・流石に今夜中は無理でしょうけど」

「・・フィアナさん、 待って、」


震える声で呼び止められる。

声のした方向を向いた瞬間、クローディア殿下が私を抱きしめるように、
それこそ懇願のように、悲痛な声で「行かないでください、」と呟いた。


「クローディア殿下・・?」
「ごめんなさい、でも、今別れたら、もう一生会えない気がするんです、」
「・・・・」

「フィアナさんを、信じています。 お話も、信じます、
 だからお願いです、 ・・居なくならないで、」





(・・・クーデターの時でも、非常時でない普段でも)
(凛としていて、しっかりしてるのが印象に残ってた)

(こんなに弱々しい姿を見たのは、初めてだった)

(今にも泣きそうな声で、彼女は私を引き止めている)





 
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