小説

SC F
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探索途中経過、聖堂へ



航空中にベッドで寝るなんて大丈夫なのかと若干不安要素はあったものの、
どうやら考えるだけ無駄だったらしい。 案外快適だった。

拠点での拾われ回収から翌朝。
グロリアスの中を見渡しながら、私は探険の続きをしていた。

あまりにも広くて迷う気もしたけれど、案外平気だ。

昨夜レオンさんに、移動に必要になると位置を教えられたエレベーター。
エレベーターに乗り込むと、認証機から音声が流れる。


『聖堂及び機関部への移動は制限されています』
『認証チェックを受けてください』

「・・・フィアナ・エグリシア、聖堂まで向かいます」

『―――認証いたしました』


認証受諾の音と共に、エレベーターは高度を変えていく。

いつ認証登録されたのか記憶にないが、こんな組織だ。
最早考えるだけ無駄な気がしてくる。

というかそもそもこんな技術、ツァイスにあっただろうか。

動きを止めたエレベーターに、入口部分の扉が両サイドに開く。

外に出て辺りを見回すものの、左は突き当りだろうか。
右には廊下が伸びており大きな扉が待ち構えている。

・・微かにピアノの音色が聞こえている、

音色につられるように、廊下を歩み進む。
扉に近付くと大きな扉はゆっくりと私を出迎えた。

隙間から直接耳にしたその音色はピアノ、というよりは
パイプオルガンに近いことに気付く。

いくつかの大きな柱、正面には巨大なパイプオルガン。
それを演奏する見覚えのある人物の後ろ姿。

オールバックになった紺色の髪と白い衣服。
動く彼の腕は鍵盤を叩いているようだ。

聖堂の中へと入っていく。

柱の伸びた両脇は深淵のように真っ暗で、
辺りを軽く見渡しながらカーペットを上を歩いて行く。

一定の距離まで近づいた時、曲が終わったのかパイプオルガンの音は止み、
教授は肩を引いて、私の姿を視界に収めた。


「おや・・フィアナ君か」
「こんにちは、教授。 パイプオルガンの音色が聞こえたので、
 つい覗きに来ちゃいました」


肩を上げて小さく笑う私の様子に、
教授が椅子に座りなおして向き直った。

パイプオルガンまでの数段を上る。


「何か用事かい?」
「あはは、探険途中なので用事なんて特に大したことは。
 寧ろその質問をすべきは私の方かなぁと」
「・・ほう?」

「拠点に付いてきた私を回収してまで、何かご用事でしたか?」


自らのオレンジ色の髪が視界の端で微かに揺れた。
教授は少しの間、私を見つめた後に薄く口角を上げた。


「君は物怖じしないタイプだね」
「うーん、お褒めでしょうか?」
「ふふ、さぁ。 呼んだ理由は・・そうだな」


彼は悩むように手を口元に寄せる仕草をすると、
再度私を見つめてゆっくりと口を開いた。


「福音計画はこの先、また少し大掛かりな物になる。
 それが落ち着くまでは大人しくしてもらおう・・・と、この辺りかな」
「・・まだ規模広がるんですか?」


驚き半分、呆れ半分のように口を開ける。

だって、死者こそ出ていないもののグランセルでは巨大戦車が出てきて、
ボースでは古代竜ってとんでもない規模だったのに。


「リベール国内だけで済む話ならば、これほど可愛いものは無いね?」
「・・・・」


教授の言葉を理解するなり、眉を寄せて深く溜息を付く。
あ、溜息なのになんか苦い。

本当にこの組織は何をしでかすか分からない。
止められる術も無いので大人しくしておきますけれど・・・

苦い表情を浮かべていたのか、教授は面白げに笑いを零す。

ふと聖堂内に響く微かな足音に、顔を上げてそちらを向いた。


「・・・珍しい組み合わせだな・・」
「おや、レーヴェ」
「レオンさん」


象牙色のコートのポケットに両手を突っ込み、
パイプオルガンの前にある椅子に座る教授と、
その向かいに立つ私を見比べるレオンさん。

・・・表情はよろしく無さそう。


「今日は客が多いね。 何か用かい?」
「用があるのはそっちじゃない」
「・・・私ですか?」


私の傾げた首に、レオンさんは頷きも否定もせず。
私を見た後、後ろの出入り口に指をさした。

・・・外? 出ろってことでしょうか、これは

彼は出入り口を指したまま、怪訝そうな表情で
微かに視界に教授を収め口を開く。


「貴様がフィアナに何を言うか気が気じゃない」
「おやおや」
「・・レオンさんの教授に対する信用が無さすぎて」


気にしていない様子で笑みを浮かべる教授を横目に。

催促するように彼に名を呼ばれ、小さく笑いながら教授から離れた。
数段下り彼の隣まで数歩の距離を縮める。

振り返りパイプオルガンの前に座る教授と、
隣に立つレオンさんに浅く会釈を1度。


「では私は一旦これで」
「あぁ、ゆっくり巡ると良い」
「・・・後でな」


お二人の言葉に笑い、再度会釈をしてパイプオルガンに背を向ける。
白いブーツで、赤いカーペットの上で踵を鳴らしていく。

・・・エステルちゃんの様子見に行こうかな





(・・随分と気にかけるな。 それほど彼女が大事かい?)
(勘違いするな、貴様が相手でなければ放任している)
(これは思った以上に信用されていないな)





 
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