小説

SC F
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謎の行動を見えない者へ



甲板から立ち、深夜日付が変わる直前。

星空を見上げている最中、
突然目元が男性らしき手で覆われて視界が真っ暗になる。

「わ」と短く一言呟いた矢先、後ろに一歩引かれて足元が若干揺れる。

あまりに突然だったもので、誰の手かまでは見えてないし、
目元覆う行動も十分謎だけど、流石に誰がしてるかくらいは分かる。


「レオンさん、ですよね。 どうかしたんですか?」
「・・・・」
「それとその、何も見えないです」


苦笑いしながら小さく顔を上げて。
ただでさえ暗い夜に、目元まで塞がれちゃ光すら差し込まない。

私の質問になかなか彼は答えず。
本当に微かな息遣いだけが聞こえた。


「・・・何をすれば、」
「?」
「俺は何をすれば、お前の耳に届かないのだろうかと 考えていた」

「・・・盗み聞きですか?」
「全く人聞きの悪い。 事故だ」
「ふふ、知ってますよ」


盗み聞きなんて人じゃないですもん。

笑いながら私の目元を覆うレオンさんの手を、
上から覆うように振れて離した。

視界に差し込む船内の明かりや、星空、月の光が再度映り込む。

差し込む光の中で、逆光で暗がりな彼の表情も。


「耳に届かないことを考えるなら、
 塞ぐのは目ではなく耳じゃないんですか?」
「・・・お前の場合は目だろう」
「え、流石にその言い分は分かんないです」

「見過ぎだと言っている」
「・・・見てませんよ?」
「そうではなく」
「見えていません」


ハッキリと答えると、彼は口を噤んだ。
どうやら発言の意図による回答はこれで合っていたらしい。

口を噤んだまま、喋らないレオンさんへ笑顔1つ。

小さく息を吐き出して、月と星と 街中の明かりへと目を向けた。


「話したくなるんですって」
「あぁ」
「返事も慰めも要らないけれど、私に聞いてほしい。
 ・・・そう、言われました」

「何人だ?」
「5・・・いえ、7人は聞いたかな、
 流石に10は行ってないと思いますけど」
「・・・見過ぎだろう」
「見えてないんですって」


納得行かないように、腑に落ちないような表情の彼に、
苦笑いを向けながら同じ言葉を紡ぐ。


「少なくとも数を見聞きするような話ではないし、
 ・・・何より今のお前は少なからず引き摺っている」
「・・分かります?」
「何日お前が側に居たと思っている。 それほど疎くはないぞ」

「はは、流石です。 ならついでに質問しますね。
 今の私はそれほど『黒く』見えます?」
「・・・いや、 黒くはない」
「だったら大丈夫ですね。 結局は言葉伝いってことかな」


出てきた否定の言葉に小さく息を吐き出した。
時間が時間だからか、街中の明かりが1つずつ消えていく。

――かと言い「『真っ白』か」と問われたら
――すぐには答えられなかったのでは、と


「確かに澱んでいるかもしれない、歪んでいるかもしれない。
 ただ綺麗なだけの世界じゃないかもしれない。
 それでも・・・この世界に住む人達が、
 創りあげて来た人達も含めて、私はこの世界が好きです」


――この娘は、どこまで。


風で舞う夕日のような長い髪が、弱いと感じたあの目が、
優しい声の中に交じる、揺らがないあの意志が。

彼女の持つ全てが、愛しいものを見るように、
無数の人工物の明かりへと向けられた。

この1年弱で、彼女からいくつもの数えきれない言葉を受け取り、
数えきれないほど彼女の姿や仕草を見てきたが。

息を呑んだのは、今この瞬間が初めてだったと思う。



(レオンさんには理解してもらえないかもしれないけれど)

(付け足すように呟いて苦く笑う姿ですら)
(真夜中にも関わらず、眩しいと感じる)





 
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