小説

SC F
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アクシスピラー頂上にて



機械人形に連れてこられたのは、
浮遊都市の中でもずっと高い建物だった。

あまりの高さに思わず息を呑む。
落ちたら即死のような、そんな高い高い塔のような建物の頂上。

ここが目的地だったらしく、機械人形は頂上の端に止めた。

機械人形から足を下ろして両足を地に付ける。


「っと・・連れて来てくれてありがとう」


機械人形に向けてそう言うと、
人形はいくつかの機械音を発した後に稼働を停止した。

辺りを見渡す。

奥の真ん中、随分とぽっかり空いた穴と
その穴の先に象牙色のコートを羽織り、背を向けた人物の姿。

穴の周りを歩き、私を呼び出したであろう人物に近づく。

一定の距離まで近づくと彼は振り返り、「来たか」と一言呟いた。
ぺこりと会釈をする。


「こんにちは。 この大きな穴、なんですか?」
「地下に続くエレベーターだ。 先程教授が降りた」
「・・・これエレベーターだったんですか」


穴の下を覗くとそこは真っ暗で。
下の階やエレベーターなんて微塵も見えないけれど・・

しばらく眺めていると軽く腕を引かれ、
「落ちるぞ」と呆れ様子で注意一言。

その拍子に見上げたレオンさんの表情を眺める。


「・・・何か言いたそうだな」
「いえ、 大したことじゃないんですけど」
「なんだ?」
「レオンさんが私を呼び出すのは珍しいなって」

「・・・言うほど深い理由は無いのだが」
「はい」
「・・計画も終盤だからな。 お前の様子を見ておきたかった」
「・・・わざわざ呼び出してまで?」


肩を上げて、笑いながら彼に問いかける。
こんな質問は少し意地悪な気もしたけれど別に構わないだろう。

彼は私を見つめた後に目を伏せて「あぁ」と。

・・・少し驚いて瞬き2つ。


「自分で聞いておきながら驚くのか」
「ちょっと予想外でした・・悩み一拍くらい空くかなぁと、」


彼の認識で行くなら、意思確認は直前でもさして難しくないだろうし。

なんだかんだ気にかけてくれる人だけど、
正直「わざわざ」って印象は無かったから。

あれ、こんな人だったっけな、みたいな。


「・・そういやフィアナ、どこか打っていないか」
「・・・あ、アルセイユ墜落した時の?」
「あぁ」
「左肩を少し。 今は痛みもないですし、支障無いですよ」

「・・そうか。 アルセイユの方は今どうなっている?」
「えぇー・・・それは・・・組織としてですか? 個人的興味ですか?」
「あぁ、何気なしに聞いたが引っ掛かっているか。 興味」

「浮遊都市探索のために先程4人ほど向かいました。
 一区切り付いたらまた戻ってくると思いますよ」
「・・・随分と安易に答えるが、お前はそれでいいのか?」
「構いませんよ。 嘘は付かない人でしょう?」


呆れ気味に短く息を吐き出す彼の姿に、
思わず笑うと彼は追加で小さく溜息1つ。


「ヨシュア君に問うた言葉も、もうすぐですね」
「・・・そうだな。 フィアナは、どう思う」
「レオンさんが納得するような答えを出して来ると読んでます」

「何故そう思う?」
「ヨシュア君だから。 それが全てですね」
「・・・お前は根拠が無いものを当然のように平然と言う・・・」


吹きつけた風が頬を撫でる。
舞うように揺れた髪を耳に掛け空を見上げる。

嗚呼、空は今日も青い。

貴方が感じたよりも、貴方が思うよりも
きっと、世界はずっと綺麗なはずなんだ。


「大丈夫です。 その時には・・私が貴方に語った話も
 理解してもらえると信じています」
「フ、お前の話がどこまで通るのか楽しみだな」
「楽しみって、 私これでも一応真面目なんですけど・・・」

「分かっている。 ・・呼び止めて悪かった。
 そろそろ戻らなければ向こうが心配するんじゃないか?」
「あ、と。 そうですね」


私の後ろを通り、歩き出したレオンさんの後を付いていく。
穴の周りを歩き、私がこの塔に来るまでに乗った機械人形へ。

彼が機械人形の操作盤を開き、
パチパチと軽快に設定を入力していく動作を横で眺める。

暫く打ち込むと機械人形の起動音。
何度か聞いた機械音が、風に消えていく。


「これで粗方の命令は聞くだろう」
「はい、ありがとうございます。 ・・・・」
「・・どうかしたか?」

「んー・・・ あの、レオンさん」
「?」


苦笑い気味に彼を見上げて。

悩んだ末の答えは「終盤だしまぁいっか」
小さく、吐き出した息は心なしか重い。


「もし、今・・私がレオンさんに抱きついたりしたら、
 迷惑ですか? 困りますか?」
「・・そんなことはないが」


レオンさんの言葉に、にこ、と笑い、
軽く地面を蹴って数歩程度の距離を詰める。

勢いが無かったせいか、収まった先はほとんど揺れずに。

小さく吐き出された息が聞こえたのとほぼ同時に、
首の後ろを通って彼の手が肩に触れる。


「・・随分と珍しいな。 お前はそういうタイプではないのかと思ったが」
「一応欲くらいはありますよ? ただ・・そうですね、」
「・・・?」


不安、気のせい、心配事。

心配事はある程度杞憂に終わる、と
いつだったか、随分前に彼が言っていた言葉を思い出す

そうであってほしいと、思いたくて、願いたくて


「・・・レオンさん」
「なんだ?」

「この計画終わって、私にまだ居てもいいって・・言ってくれるのなら。
 お仕事のついででも、お暇だった時でも いつでも構いません。
 今度は帝国に、エレボニアに連れて行ってくれませんか」


全て終わって、
その後の約束。


「・・全く妙なのに好かれたものだな」
「妙って」
「構わない。 行こう」

「・・・もーう、あんまり私を甘やかしちゃダメですよー?」
「自分で言っておいて何を」


レオンさんの呆れたように零した笑いに釣られて笑う。
軽く息を吐き出す。

彼から少し離れると「もういいのか」と。
頷いて、離れて。

機械人形に手を掛けて、乗り込む。


「それでは、また後で」
「あぁ。 道中気をつけるといい」
「ふふ、はい」



(宙を降下していく彼女を乗せた機械人形)

(あの翠は何を見た?)





 
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