小説

SC F
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闇が夜を覆った出現初日



グロリアスの甲板。

あまりの存在感、あまりの威圧感。
開いた口が塞がらないのはこの国全体的に見ても私だけではないだろう。

唖然、呆然。 空に浮かぶ巨大都市はあまりにも、
・・・あまりにも、この国には似つかわしくないシルエットで。

彼らは一体あれを使って何をしようというのか。


「フィアナ、口開いたままよ」
「・・・閉まらないんです」


苦笑いしながら、隣から掛けられたレンちゃんの声に返事をする。

一度俯いて、口元抑えたまま顔を上げたけれど、
私の口から、浮遊都市に対して出てくるような言葉は何もなくて。

軽く握り締めた右手へと視線を落とし、少し眉を寄せる。


「彼女達が・・少し、心配です。 無事でしょうか、」
「・・気になるならば行くといい。 止めはしない」


一歩前から掛けられたレオンさんの言葉に顔を上げる。
顎を引いて私の姿を視界に収める彼の姿に瞬き2つ。

更に続くように隣から「ふぅん」なんて少女の声。


「レンも別に構わないけれど・・・フィアナって不思議よねぇ」
「? 不思議ですか?」
「だってレーヴェのことが好きなのに、
 エステル達のところへ行きたがるんだもの」

「・・レオンさんのことは勿論好きですが、
 エステルちゃん達も好きなんです。 ・・レンちゃんもね」


頭のリボンに触れないようにレンちゃんの髪を撫で、
しゃがみ、彼女の左手を手に取る。

浮遊都市の光の輝きで照らされる彼女の表情は、
幾度か瞬きを繰り返して、しゃがんだ私と目線を合わせた。


「レオンさんやレンちゃん、この船に乗っている好きな人達は
 無事だって分かりました。 だから今度はこの船に乗っていない、
 好きな人達のことを心配したいんです。 ・・・不思議でしょうか?」
「・・・・不思議じゃない、かも」


頷きながら首を傾げるレンちゃんに笑いかける。

誰を相手にしても全ては伝わらない。
人間には、言葉には限界がある。

彼女が気付くかどうかも分からないくらいに、
一度握る手を少し強めて、握っていた手を下ろした。

しゃがんでいた体勢から体を起こし、
明かり1つすら失った国内の街へと目線を向けた。

・・こんなに、闇が包んだような明かりのない夜は、
今までの人生で初めてじゃないかと。


「・・教授」
「ふふ、私は今更止めんよ。 勿論範囲内で、だが」
「ありがとうございます。 ・・次は浮遊都市でかな、と思うのですが、
 執行者と戦闘になった際、彼らに武器を向けるのは範囲外ですか?」


質問しながら頬を掻く。
正直聞いちゃまずい気もしたけれど。

そしてほぼ同時に「来るつもりなのか・・」「来る気なのね・・」と、
ぼそり呟かれたレオンさんとルシオラさんの声に苦く笑った。


「その判断は執行者に託そう。 後で個々に聞くといい」
「まさかの根底範囲外にはならない・・・了解致しました」


ちょっと予想外の返答に思わず瞬き。

・・・ルシオラさんには来ないでほしいと言われそうか。
レオンさんやレンちゃんは・・・正直分からない。

悩む様子の私に、少し離れたところから、
「おい、フィアナ」を声を投げられて顔を上げる。

ヴァルターさんが腰に手を付いて私を見ていた。


「お前、最終的にはギルド側なのか?」
「ん。 ・・・え、どうなんでしょう。
 行動を共にするのは遊撃士達だと思いますが・・」

「フィアナ君はその辺曖昧だよねぇ。 敵ってカンジじゃないし、
 味方でもないってカンジ。 邪魔しないから楽だけどね♪」
「味方でも敵でもないでしょう。 フィアナはフィアナ、私はそう見てる」


そうでしょう、と問われ、ルシオラさんの白い指先が私の頬を撫でる。
柔らかく細められたその目を見つめて、返答は「納得です」と笑う。


「多分この計画終わったらまた戻ってくると思います。
 結社にというか・・レオンさんのところに。
 ・・・彼が許容してくれたら、ですけれど」


頬を撫でるルシオラさんの指先に、自らの手を重ねる。
目線をレオンさんに向けると、気付いたらしく合間空かずに目が合う。


「別れてそのまま帰ってこない、というのは無いので。
 もう少しお付き合いくださいね」
「・・・・あぁ」

「ねぇ、フィアナ。 レン、少しお腹がすいたわ」
「夜食にしますか? この時間だと・・何が良いでしょう」
「フィアナが作ってたかわいいサンドイッチがいいわ!」
「お作りしますね。 すみません、皆さん 失礼します」


手を振るルシオラさんや頷くブルブランさん達。
甲板に残っている執行者の方達に会釈して、
レンちゃんの隣を歩きながらグロリアスの中へと入って行った。


彼女達の背中を見送りながら、
無言のレーヴェへとルシオラが顔を向ける。


「・・・・」
「・・安心した?」
「(・・・不覚)」



(夜ってこんなにも暗いんですね・・・)
(暗所は苦手か?)
(あはは、流石に何も見えない真っ暗は不安かも・・夜目利かないし、)
(・・・・まぁ、別に悪い事だけでもないだろうが)

(と、言いますと・・?)
(灯りが無いならば星が綺麗に映るだろう。 見に行かないのか?)
(! か、甲板いいですか!?)
(構わない。 付き合おう)





 
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