小説

SC F
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予告と内緒に包んだお話



「俺はただの留守番だ。 フィアナも居ることだしな」
「・・・・」


剣帝から、その表情でその言葉を聞いた時。
表情にも声にも出せなかったけれど、内心不思議に思ったの。

一瞬のことだったし、ふと勘付いただけだから、
もしかしたら気のせいかもしれない。

荒んでいて、冷たいようで、それでいて燃え盛ってるような目。
お父さんやヨシュアに、彼の目をそう例えた。

でも私の気のせいじゃなければ、
フィアナさんの名を呟いた時の彼の目は、

少しだけ落ち着いていて、優しい目をしていたように思うんだ。







「あ。 お疲れ様です」
「はっ、フィアナ様お疲れ様です!」


『様』はやめてくださいって。

苦笑いをしながらぽそりと呟いた言葉に、一室の入り口に、
見張りで立ってた兵士さんが「いやいやいや」と首を横に振った。

閉まりきった、センサーでは反応しない扉に目を向ける。


「遊撃士が居る部屋ってここで合ってます?」
「はい、こちらの部屋に」

「彼女と少しお話したくて。 開けてもらってもいいですか?」
「は・・、し、しかしレオンハルト様の許可無くしては・・」
「ふふ、ちゃんと貰ってきました」


両手を合わせて笑い掛けると、兵士さんの口が少しだけ開いた。

頬を少し掻いて、私に背を向けて扉の隣にある機械に、
暗証番号を入力していく兵士さんの動作を見つめる。


「こんなこと言うのもあれですが、
 あの方達はフィアナ様に甘くありませんか・・?」
「部外者だからじゃないですかね」


冗談交じりで笑いながら返した返答に、
苦笑いしながら悩んだ様子の兵士さん。

暗証番号が打ち終わったようで、プシュッと音を立てて扉が開いた。
ベッドに座って足を下ろしてるエステルちゃんが顔を上げる。


「一度扉閉じますので、終わられたらノックお願いします」
「分かりました」


室内に足を踏み入れ、プシュッという音と共に真後ろで扉が閉まる。
ロックが掛かったらしい機械音。

ベッドの端に座り、私を見上げたままのエステルちゃんを一目見て、
彼女の隣に腰を下ろした。 組んだ手を足の上に置く。


「・・フィアナさん。 フィアナさんもお留守番なんだっけ?」
「うん。 まぁ居ても邪魔だし、元々関与しないって話だったし。
 レオンさんも居るから」


組んだ指先を見つめて、少しだけ目を細めた。

そこから少しだけエステルちゃんの方に視線を向けると、
私を見て不思議そうな顔してるエステルちゃんに疑問符。


「え、何か可笑しなことでもあった?」
「? ・・・? なんだろう。 ふと思ったんだけどさ」
「うん」

「剣帝とフィアナさんの表情、今一瞬だけ似てたなって」
「え?」
「ごめんっ! やっぱなんでもない! 気にしないで!」


両手を横に振って否定をするエステルちゃんに疑問符が浮かびまくる。

あまり顔は似てないと思うけど、私がその彼の表情を見てないので、
自分が今どんな表情してたかも分からない。


「私、今どんな表情してました・・?」
「そんな真剣な顔で聞かないでよぉ、ほんとなんでもないから」


・・・どうも不完全燃焼な感じだけど、
エステルちゃんも譲る気はないみたい。

話題を逸らすかのように、彼女は口を開いた。


「そ、そーだ。 フィアナさんは何しにきたの? 用事?」
「あ。 ううん、ただエステルちゃんの様子を見に来ただけ。
 遊撃士とはいえ女の子だし・・こんな、誘拐まがいな状況で
 大丈夫かなって心配になって来たんですけど・・・」


そこで顔を上げてエステルちゃんの顔を見る。
エステルちゃんはケロリとした顔で、心配は杞憂だったようだと。

いつもと変わらないエステルちゃんの表情に笑う。


「・・余計なお世話だったみたいです」
「余計だなんてそんなこと! フィアナさんありがとう。
 心配して来てくれたんだね」
「どういたしまして」


エステルちゃんの明るい笑顔に釣られて笑う。

その後、エステルちゃんの耳に口元を寄せる。
耳打ちかと察したらしい彼女は少し耳を傾けて。

声量を落として、呟くように口を開く。


「でもいつもどおりすぎて、この後何かやらかしそうです・・」
「ぶっ! っ、げほ」

「当たりました?」


咳き込むエステルちゃんの背中を手でさすり、小さく笑う。
彼女の顔は大層驚いたようで、動揺に似た瞳が私を見上げた。


「っな、んで・・!」
「大丈夫ですよ。 誰にも言いませんから」


咳き込み、口元を手で覆ったまま困惑の色に染まった目。
困惑の色が落ち着いたかと思いきや、今度は悩んだような。


「・・・・ フィアナさんって、やっぱり味方なの? 敵なの?」
「気持ち的には遊撃士さん達の味方で在りたいですし、
 立場的には味方とも敵とも言えない感じです」

「・・・簡潔に言うと?」
「結社の情報や計画阻止は手伝えませんが、基本的にギルドの味方です。
 ・・なんていうと兵士さんから反発買っちゃうかな?」


苦笑いでそう答えると、エステルちゃんが悩んだような表情をして、
今度は彼女が私の耳に口元を寄せた。 声量は小さい


「フィアナさんだから言うけどね」
「うん」
「私、この方舟から脱出するつもりなの」

「・・・飛び降りじゃないですよね?」
「流石にしないよ」


くすくす笑うエステルちゃんに「ですよね」って笑う。


「だから後でお騒がせしちゃうかも」
「立場上お手伝いはできないけど、応援しています」
「ありがと」

「後で絶対に合流しますね」
「うん。 待ってるね」





 
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