小説

SC F
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墓参りに遭遇した彼女達



古代竜事件から1週間。

ボースでレオンさんと花束を2つ購入。

彼は白い百合がメインの花束を、
私は淡い黄色の木香薔薇がメインの花束を。

これにしてください、と木香薔薇を選んだ私の後ろから
「意外な選出だな」なんて言葉が聞こえた。

木香薔薇は印象深く記憶に残っていたから、

木香薔薇の花束を抱え、ラヴェンヌ村の木製のゲートを越える。

目的の場所へと先を歩く彼の後ろを付いていき
坂を上ると3名ほどの人影。 あら、先客が。

左前に立つ彼の様子を見たら特に変化はなく。
・・あ、そのまま行くんですね。


「・・・フフ、和やかな所を悪いが少し邪魔をさせてもらうぞ」
「!!」


彼の言葉にアガットさんが真っ先に振り返り、
その後モルガン将軍とティータちゃんが振り返った。

小さく会釈をして顔を上げて笑う。


「お邪魔します。 珍しい組み合わせ・・でもないかな?」
「フィアナお姉ちゃん、」
「お主は・・・」


レオンさんと私を見比べるモルガン将軍に、
再度1つ会釈を行った。







薄々勘付いていたけれど、どうやらアガットさんと
レオンさんは、何かしらの因縁があるらしい。

何かと噛み付くアガットさん、聞きながらも流すレオンさん。
場所が場所だと止めるモルガン将軍。

しゃがんで墓石の前に花束を置き、
瞼を閉じ、手の平を合わせて、黙祷を捧げる。

レオンさんと将軍のやり取りを聞きながら、
私は口を挟むことなく、ただじっと聞いていた。

・・・聞いてる側として、彼の残す一言に心が痛む。
嗚呼、 ・・・重いな、言葉が。


「・・帰るぞ、フィアナ」
「あ、 はい」


突然向けられた言葉に、すぐに対応ができずに、
ワンテンポ遅れて返事をする。

しゃがんでいた体勢から立ち上がり、
去っていく彼の後ろを小走りで付いていく。


「っフィアナお姉ちゃん!」


呼び止めるかのような声に、足を止めて
今さっき背中を向けた方にと振り向く。

ティータちゃんはさっき立っていた位置から、
数歩歩いて立ち止まったようで。

陽に当たった寂しげな表情が、読み取れてしまった。


「・・・時間掛かるか?」
「そう取らせません」


ティータちゃんを見たまま、彼の声に返事を返す。

少し坂の下に居る私を見つめて、眉を寄せ、
行き場のない手を胸元に置いたティータちゃん。


「・・フィアナお姉ちゃん、 あの、 ・・・」
「うん」
「フィアナお姉ちゃんは・・ずっと変わんないよね・・・?」


若干遠回しな、意味ありげな言葉に一瞬間が開く。

そして今まで起きたことが点々と脳裏を過ぎって、
その言葉の真意であろう答えが出た。

不安そうな表情に少しだけ笑う。


「引き戻せないとこまでは行かないよ。
 そんな自分が予想できないし、何より信じられない」
「お姉ちゃん、」
「・・だから、今はまだこれで許してね」


ティータちゃんは胸元に当てていた手を、強く握り締めて
「うん、 ・・うん」と、短く返事を繰り返していた。

・・・・私の行動は意外と影響を与えてしまってるようだ、
・・困ったな、今度会った時にはティータちゃんをめいっぱい甘やかそう。


「フィアナ」
「はい?」
「お前、いつこっちに戻る?」


ティータちゃんの後ろから、アガットさんが声を掛ける。
彼の問いに返事を返すのは、そう苦ではなかった。


「許可は下りてるので、戻ろうと思えばいつでも。
 また近々、そちらにお邪魔することになると思います」
「・・分かった。 エステル達にも伝えとく」


笑って「お願いします」と一言。
もう連絡はないかな、と一息。


「さて・・今日のところはこれで帰りますね。
 モルガン将軍もまた後日。 失礼いたします」


坂の上に居る3人に向かって礼をする。

「またな」と帰って来たアガットさんの返事と、
控えめに手を振ってくれたティータちゃん。

倣うように会釈を返したモルガン将軍を見てから、背を向けて坂を下り始める。

下りきった場所で待っていた彼に追いついた。

私の姿を見た彼は村の外へと歩き出し、その後ろを追った。


「・・・フフ、随分好かれているようだな」
「そう見えますか? ・・レンちゃんの一件があったので、
 不安だったんでしょうね。 ・・ちょっと申し訳ないです」


少しだけ瞼を伏せる。

私は元々、レンちゃんが結社の人間だと知っていたけれど。

それを知らずに接してきたティータちゃんやエステルちゃんは、
彼女が執行者だと知った時、一体どんな気持ちだっただろう。


「・・・お前は元々、他人に影響を与えやすい人間だ。
 自覚なくとも、それを踏まえて考慮してやれ」


少しの沈黙。

・・・・言われれば「そうなのかも?」と
思う箇所が、途切れ途切れに脳裏を過ぎる。

・・そうなのかな。 影響を与えやすい人間って、
良い意味にも悪い意味にも捉えられないのが少し。

そして彼が言った言葉に ん? と疑問を持ち思わず顔を上げた。


「それって自分にも影響及んだから出てくる言葉ですか?」
「・・・何故お前はそう・・」
「あら、否定がない?」
「・・・・長期間、側に在れば影響くらい及ぶ」


言わされたことが不服なのか、
怪訝そうな顔で呟いた彼を見て、少しだけ笑った。


「良い影響ならいいんですけどね」
「自分が悪い影響を与えているとでも?」
「だってレオンさんは、ある程度意思が固まってる人だから」





 
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