小説
□SC F
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追いかけた少女の在り方
マーケットの被害収束に務めた後、
ギルドでラヴェンヌ村が襲われたと報告を受ける。
目を伏せて思い浮かぶのは、ボースマーケットの
真上に着地したあの竜と、・・・彼の姿。
飛び立つ前、一目向けられたあの意味ありげな表情は一体。
ティータちゃんの同行に許可が下りるところで、
「エステルちゃん」と、声をかけた。
「・・私も、連れて行ってくれませんか?」
広げた手の平を胸に当てて、困り気ながらも、
私の思い全てを精一杯込めて伝えた、たった一言は、
空間全てが一瞬静寂した後、エステルちゃんから承諾が下りた。
胸を撫で下ろして、お礼とお辞儀を1つ。
これが、私の在り方だと思ったから、その行動に移すまで。
*
間一髪で潜り抜けた竜の吐き出す炎に驚いて、
後ろを振り返ったら進むに進めなくなったエステルちゃん達の姿。
エステルちゃん達と私の間には竜が高度落として構えていて。
「フィアナさん! 私達のことは気にしないで行って!」
エステルちゃんの必死さと懇願に似た声に、口を噤み、
背をエステルちゃんに、足を彼らの方へと向けた。
遠めながらティータちゃんがアガットさんを庇うように、
前に出て、 レオンさんが、剣を向けてる。
ティータちゃんが動力砲を落として、
アガットさんの前で両手を広げたのが見えた。
「・・・・フッ、健気なことだ」
レオンさんは剣を下ろして、私の方を一目見やった。
しっかり目が合ってしまって、思わずギクリと肩が跳ねる、
それに怯まず、彼の隣までゆっくりと確実に歩いた。
ティータちゃんが少し驚いたように、私を見ているのが視界の端に映る。
「フィアナお姉ちゃん、」
「・・・お話は終わりましたか?」
「終わった」
目を伏せたレオンさんに、少しだけ笑った。
ティータちゃんの後ろで私を見つめていた、
アガットさんに気がついて、会釈を交わす。
手を後ろで組んで、レオンさんの様子を見ていた。
「・・大分予定が狂ったな、
邪魔も入ったようだし、今回はこれで退いてやろう」
「え・・・」
呆けた声を出したティータちゃんを一目見てから、
飛空挺が降りてくる音に顔を上げる。
紺色の、王国軍の飛空挺。
「フッ、ようやくのお出ましか。
これで最後の実験を始めることができそうだ」
「れ、レオンさん!」
竜に飛び乗ろうとしかけた彼を思わず引き止める。
レオンさんは一瞬悩んだ表情をしてから、私の手を引いた。
「へ、」
「お前は付いてこい」
「え、 っわ!」
了承の言葉を紡ぐ前に、既に足は地から浮いていて。
引かれた腕から、背中と足裏にレオンさんの腕が回っていて、
軽々と持ち上げられ、横抱きにされて、る。 え?
「な、な・・っ!」
「この娘は暫く借りるぞ」
そう言った矢先、竜に飛び乗るレオンさんと抱えられてる私。
ただひたすら困惑するしかない私とは裏腹に、
既に地上は大分遠退いている。 え、え。
竜の上で下ろされ、座り込んだ足を崩す。
う、うわ、すごい、竜ってこんな感触するんだ。
「ちょ、ちょっと! あんたフィアナさんに何かしたら・・!」
「心配せずともこの娘に危害を加えはしない。 すぐに返す。
・・・フフ、『返す』は語弊か。 貸しているのだからな」
「な・・・!?」
「人を本みたいに・・・」
ボソリと呟いた言葉は聞き取られてしまったらしい。
隣で「はは」と小さく笑うレオンさん。
「しばらく帰されない感じですか?」
「帰さないな」
「・・・あー」
口元に手当てて少々悩む。
これ以上深入りするなと。
小さく頷いてから、竜の上に立ったり座ったりな私達を
見上げるエステルちゃんに目線を落とす。
「エステルちゃん、ごめん! 今回の件お願いするね!」
「・・・! 分かった!」
右手に握り拳を作って「任せて」のポーズを取る彼女に、
目を細めて少しだけ笑った。
エステルちゃんなら大丈夫、きっとどうにかしてくれる。
お邪魔らしい私は大人しく回収されましょう、はい。
(フン、古代竜にそのような攻撃が通用するものか)
(きゃ・・! ちょ、 お、落とさないでくださいね・・!?)
(黙って捕まっていろ)