小説

SC F
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眩しき少女は写真に残る



昼過ぎ。 昼食を終えた私とレオンさんが、
拠点の廊下で歩きながら会話していた時だ。

不意に「パシャッ」と音が届き、音のした前方へと顔を向ける。


「ふふ、ツーショット」
「・・・ルシオラ」


いつのまに居たのやら、ルシオラさんが微笑みと共に、
カメラを片手に持って立っていた。

レオンさんは呆れたように、腰に手を当てて大きく息を吐き出す。


「また写真か、懲りんな」
「ふふ、懲りないわよ。 貴方だって、
 今みたいに隙を見て何枚でも撮ってやるんだから」


挑戦的な言葉に、レオンさんは少し顔を顰める。
今の話を聞いている感じ、どうやら既に何枚か撮られていそう。

敵意のないものであるとはいえ、彼の隙を突くというのは。
なかなか、凄いことをしている気がする。


「写真撮るのが趣味なんですか?」
「そう。 写真は残るものだから」


ルシオラさんは、意味ありげにカメラに向けて目を細める。
その様子がどこか切なげで、愛おしそうだった。

あぁ、彼女も何やらかがある人か。
なんとなく勘付きつつも、いつものように笑い「なるほど」と返す。

レオンさんは何も話さず、私達のやり取りを見ている。

少しだけ思案するように手を顎に当てたルシオラさんは、
ふと思い立ったように表情を明るくさせた。


「そうだ、フィアナを撮ってもいいかしら?」
「え。 たった今撮ってませんでしたか?」
「やだ、それはレーヴェとのツーショットでしょ?
 正面からフィアナだけの写真が欲しいのよ。 だめかしら?」
「そ、そういうのはかえって緊張しますね・・・」


撮られることに抵抗は然程ないけれど、
撮らせてと前置き付きで撮られる機会はまずない。

戸惑いを見せる私の返事に、ルシオラさんは笑いながらカメラを構えた。

あ、撮っちゃうんだ。
僅かに困惑を抱えたままレオンさんを見やれば、すぐに目が合う。


「・・・フ、撮ってもらえばいい」
「れ、レオンさんまで、」


カメラを向けられてて、動くに動けない私を横目に、
レオンさんは邪魔をしないようルシオラさんの後ろに移動した。


「ふふ、それじゃぁ笑顔お願いね」
「む、むぅ・・・」


レンズ越しに私を見つめるルシオラさんにちょっとだけ眉を寄せる。
緊張からレンズから思わず目を逸らす。

逸らした先に居たレオンさんに、一瞬胸が高鳴る。
あぁ、やっぱり好きなんだな。 って、想い直して。

今なら笑える気がする、

ルシオラさんの方へと視線を向けて、目を細めて、微笑んだ。







「これは・・この間の写真か?」


談話スペースのテーブルに、何枚もの写真が広げられていた。
その中には自分とフィアナが会話中であろう写真も何枚か混ざっている。

ルシオラは写真を何枚かまとめながら、笑みを零した。


「昨日現像してもらってね。 綺麗に撮れてるでしょう?」
「あぁ」


生憎自分は写真機器には詳しくないが、どれも綺麗に撮れているように思う。

ヴァルターがワインを飲んでいるところや、
拠点の外で、湖に視線を投げるブルブランの後姿などもある。

それらを視界の端に捉えながら、広げられた写真をかきわける。
ふと目に入ったフィアナの映る写真を1枚手に取る。


「ふふ、1枚くらい持ってく?」
「いや、いい」
「あら、残念」


笑みを零すルシオラを一目見て、再度テーブルにと視線を移す。
何度も見た明るい髪色が、視界の端々に映る。


「・・フィアナの写真が多いようだが」
「そうね、会ったばかりだし・・この計画が終わってしまったら、
 次はいつ会えるか分からないから」


意識して多めに撮ろうと思ってるの。
そう言いながら口元に笑みを。 呟いたルシオラを見つめる。

珍しい、のかもしれない。
彼女の人が良いのは知っているが、まさかこの短期間で。


「・・随分と買っているのだな」
「貴方が言う?」


間髪入れず笑いながら返され、少しだけ目を見開く。

未だ左手にしていた写真のフィアナは、
穏やかな横顔で夜空を見上げ、靡いた髪を耳に掛けていた。

夜空と対照的な夕陽。
雰囲気を上手く切り取った瞬間のその写真は、綺麗、と呼ぶのだと思う。

・・・お前は、どこに行っても好かれやすい・・・
いや、信頼されやすい人間なのだろう。

グランセルの時も、彼女が忽然と消えて悲しんだ者が居たはずだ。


「約4ヶ月、いえ、もう5ヶ月かしら? 彼女の傍に居た感想は?」


ルシオラは写真をまとめながら、俺を見もせず質問を投げかける。

・・・感想、
発する言葉に少し迷い、手にしていた写真をテーブルに置く。


「・・・・俺には眩しすぎる」
「そう言うと思った」


ルシオラはテーブルに少し乗り出して、フィアナの写真を1枚手に取る。


「・・・彼女のような存在は大事だと思うけれど、
 ここに置いておくには少し勿体無いわね」


写真を見つめながら、親しい実の姉妹かのように、優しい目をして微笑む。
一頻り写真内のフィアナを眺めた彼女は、俺へと顔を上げた。


「女の子として、とは流石に言わないけれど、
 ちゃんと大事にしてあげなさいね?」
「・・分かっている」


そう口にすると、ルシオラは安堵したかように微笑む。

嗚呼、・・・彼女の存在はここにも現れるのか。





 
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