小説

SC F
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クローディア殿下同行



「お久しぶりです、フィアナさん」


会話の区切り、赤髪の遊撃士の人の後ろから
ひょこっと顔を出したジェニス王立学園の服を来た女の子。

見覚えのある鮮やかな紫色のショートヘアとその姿に、一瞬言葉を失う。

小さく口をぱくぱくと開けて、
押し出すように出てきたのは久しぶりに声に出した名。


「っえ、く、クローディア殿下・・?」


何故こんなところに。
予期せぬ再会に、言葉の出てこない口が中途半端に開いている。

私の反応にツインテールの遊撃士が不思議そうに首を傾げた。


「あれ、2人とも知り合い?」
「王都クーデター事件の時に少し」


彼女の質問に答えたのは近くに居た殿下だった。

殿下の回答に「そうなんですか?」と言いたげな
ティータちゃんの表情に小さくこくこくと頷く。

殿下は女の子から離れ、私の前まで歩いて来て微笑んだ。


「あれ以来、突然居なくなって・・・
 お祖母様も・・私も、心配しておりました」
「・・申し訳ありません」


ただ謝罪一言を述べる私に、クローディア殿下は苦笑いで。

誰にも言わずに、出来ることならば誰にも気付かれずに、
城を、王都を出て行こうと思っていた。

いろいろ思うところはあったけど、
一番の理由はずっと近くに居て、ずっと眺めていたから。

直接的な関与こそしてないが、丸っきり無知でもなくて。
彼の行動に釣られた節はあるが、収束に居合わせるべきではないとも思った。

今度もし女王に会う機会があれば、その時には謝らなければ・・
というか、まずこんなところで殿下に再会するとすら思ってなかった。


「お元気でしたか?」
「おかげさまで。 このとおりです」
「ふふ、何よりです」


そう言って微笑んだ殿下は、私の右手をそっと取って。
少しだけ切なげに目を伏せた。


「・・・貴女に会ったら、もっと訊きたいことがあったはずなのに。
 あれも、これも、なんでも訊きたかったのに、
 今は不思議と何も思い浮かばないんです。 どうしてでしょう、」


やっとお姿が見えて、酷く安心したのかもしれません、
と続けたクローディア殿下に、私は少し眉を落として微笑んだ。

・・そんなに心配させていたとは、
申し訳ないな、そこまで気に掛けてくれていたとは・・、

手を取られた殿下の細い指の上に手を乗せる。


「消えるように貴女が居なくなったと聞いて、私、私・・、」
「・・・申し訳ありません」


少しだけ哀しさ漂う声に、謝罪を入れた。

彼女とまともに会話するのは3度目、になるかと思う。
エルベ離宮で2度会話して、今回で3度目だ。

・・そこまで影響与えたとは思わなかった、

殿下は少しだけ落ち着いたように、顔を上げては私を見つめる。


「フィアナさん、この後お時間ありますか?」
「夕方くらいまでなら」
「少しだけ、場所変えてお話しても構いませんか?」
「私でよろしければ」


そう答えると、殿下は嬉しそうに笑って
「とりあえず街に戻りましょう」と、私の手を引いた。

きっと、これが女神が定めた運命ならば私は避けられないし、
もしかしたら、ある種私の望みなのかもしれない。

手を引かれながら、雲一つない快晴を見上げて。
私はぼんやりと考えていた。





 
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