小説

SC F
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噂の彼が行動起こしたと



エステルちゃんと別れた後、兵士の中で一番仲の良いアルマさんに
グロリアスの中を案内してもらっていた。

ここに来てすぐ、レオンさんに付き合ってもらって船内散策したり、
度々暇を見つけてはフラフラ探検したはいいものの、方舟は予想以上に広い。

見れてない場所も沢山あるし、似た通路も多いから未だに迷いそう。
兵士を1人付けてもらったので、彼を付き合わせているのだけど。


「それにしても広いですねぇ・・・」
「兵士が全員収まる船ですからねぇ」


数歩の斜め後ろを歩くアルマさんを連れて絶賛迷い中。

彼はグロリアス艇内のマップを把握しているから、
私が勝手に突き進んで迷子になっているだけなのだが。

どうやらこの辺りは甲板から聖堂までの区間らしく、、
大体の位置は分かるものの、いかんせんどこも道が同じに見える。

もしかして地図を描くのが苦手なのだろうか?
方向音痴ではないと思うのだけれど。

・・・というか。

少々物々しい雰囲気になっている周囲を見渡した後、
疑問符を浮かべてアルマさんへと顔を向ける。


「アルマさん」
「はい?」
「兵士さん達と合流しなくて大丈夫ですか?」


10数分くらい前からか、艇内を兵士さん達が、
ばたばたと忙しなく走り回っているのを何度も目にする。

アルマさんは「あー・・」と納得したように頷いた後、
少しだけ笑みを浮かべて私を見つめた。


「レオンハルト様に言いつけられていて」
「何・・を?」
「異常が起きてもフィアナ様の元から離れるなと」


口を噤んで、思わずアルマさんを二度見する。
何か言おうとして、口から溢れたのは数拍の間と「へぇ」

レオンさんの指示で合流したとは言っていたけれど、離れるな、とは。
護衛を付けてくれた、と考えても過言ではない。

どこかで意外と思う反面、竜事件の時に向けられた言葉も思い出す。
私を預かる身なのだから、私から危険を避けるのも役目だと。

・・・律儀な人だな。

反応から更に数拍空いて小さく笑みを零す私に、
アルマさんは不思議そうな表情をする。

次の瞬間、ゴゥンという大きな音と共に船がグラリと揺れた。


「っきゃ、」


予想以上に大きく揺れて、バランスを崩しそうになった私を、
アルマさんが腕を掴んで支えてくれた。

ありがとうございます、と礼を述べると
アルマさんは小さく笑って頷いて私の腕を離す。

先程の強い揺れが一瞬起きた後は静かなものだ。


「なんでしょうか、今の揺れ・・」
「・・・機関部に異常ですかね。 どうされますか?」
「どうされますかって・・れ、レオンさんと合流?」


今は教授も居なければ執行者も出払っていてレオンさんしか居ない。
何かあったら彼の元に行けば大丈夫だろうと考えている。

アルマさんは私の返答に少し笑みを見せ、
「では行きましょうか」と歩き出すように促した。


「レオンさん、どこに居るかな」
「機関部へ行くエレベーター前で待つのが確実と思われますが」
「あはは、私もそう思います。 どっちだったかな」


辺りを見渡しながら彼の姿を探し、エレベーターがあるだろう方向へ。

正直現在地の把握すら危ういが、
探してる間に迷子になる・・・ということはないと思う。

私の後ろを歩くアルマさんから、
ストップが掛からないということは方向は合ってるのだろう。

道違いですれ違いとかは起こり得るか。


「あ、」


なんて、そんな心配は要らなかった。

前方にレオンさんの姿を捉えて、
後ろにいたアルマさんもが「あ」と短く呟いた。


「ふふ、レオンさん見っけ」
「・・・フィアナ。 先ほどの揺れは平気か?」
「驚いたけど無事です」
「そうか」


レオンさんは私の後ろで敬礼するアルマさんに目を向けた。


「ご苦労」
「は。 先程の騒ぎは収束なさったのでしょうか?」
「・・遊撃士を逃したくらいか」


彼の言葉に「あ、やっぱエステルちゃんか」と納得と確信を得た。

・・・本当に予告通り脱出しちゃったな。
無茶するというか、彼女らしいというかなんというか。

兵士さんもそれなりに出払ってるとはいえ、残った兵士は一桁ではないし、
そこらに侵入者を見つける機械も数え切れないほどあるというのに。

・・・いや、彼のこの反応からすると、
レオンさんを前にした上で逃げ切ったのだろうか。

状況を考えていると、ふとレオンさんがアルマさんへと視線を投げた。


「アルマ、といったな。 爆発物の仕掛けには詳しいか?」
「いえ・・・俺はあまり」


爆発物などと穏やかではない会話に耳を傾ける。
ということは、先程の揺れは爆発物。


「詳しい兵に心当たりはあるのですが」
「・・・1時間後にエレベーター前に呼んでくれ」
「は。 失礼します」
「アルマさんお疲れ様です、ありがとうございました」


小さく手を振ると、笑いながら会釈を返してもらった。
去るアルマさんを見送るのもそこそこに、彼の方にと向き返る。


「何があったんですか?」
「・・フ、 ヨシュアがやらかしてくれた」
「ヨシュア君が、こっちに?」


歩き出す彼の後ろを付いていく。

直接聞いたわけではないから推測だけど、
どうやら先程話に上がった機関部に行くらしい。

聖堂に行くエレベーターから機関部行けるんでしたよね、確か。
レオンさんは振り返らずに、先を歩いている。


「あいつの隠形には敵わん。 兵士に化けていたらしい」
「・・・あ、」


彼のその言葉に、一度だけすれ違った兵士さんと
会話した記憶がフラッシュバックする。

『はっ。 フィアナさん、お疲れ様です』

・・・貴方だったんだ。 なんて、俯き小さく笑う。
もう少しゆっくり話したかったけど、それはまた次の機会らしい。


「俺は今からあいつが施した、
 導力機関の仕掛けを解除しに回るが・・・お前はどうする?」


エレベーター前で私に振り返るレオンさん。
どうするか、と、問われても。


「・・そのヨシュア君は今どこに・・?」
「今頃剣聖の娘と脱出を試みているだろう。
 ・・・いや、もう逃げた後かもしれんな」


彼が窓の外に視線を変えたのを見、私もその後ろから窓の外の様子を見た。

小さな窓からは広大な空の一部しか見えない。
運よく、彼女達が脱出したであろう小機が見えるはずもなく。


「じゃぁ、もうしばらくこっちに居ます。
 今戻ってもきっと彼らの邪魔になるでしょうし。 それに、」


エレベーターに乗り込む彼の後に続く。
私が中に入ったのを確認してから、レオンさんは扉を閉めた。

何か言いかけた私の言葉の続きを催促したいのか、
彼の紫色の瞳が私へと向けられる。


「・・それに?」
「それに、今は貴方の傍に居たい気分なので」


レオンさんを見上げて、少しだけ笑う。
彼の表情は言うほど変わらないが、口元だけ笑った気がする。


「・・・いいだろう。 面白くはないだろうが来るならば来い」
「ふふ、はーい」
「・・お前も大概変な奴だな」
「なんですかいきなり」



(わ、煙)
(被害は・・・まだ浅いな)
(私、何かできることありますか?)
(・・・・仕掛け探すのを手伝ってもらおうかと一瞬思ったが)

(・・が?)
(危険が伴う、やめておけ。 あまり離れるな)
(はーい。 レオンさんは詳しいんですか?)
(大方分かる。 その手の専門家に比べると劣るが)





 
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