小説

SC F
12ページ/42ページ




小機に乗り込んでの休息



彼の隣に立ち、何をしているかも分からないまま竜の様子を見ること数時間。

どうやらレオンさんの担当すべき箇所は終えたらしい。
まだ例のゴスペルは竜の額にくっ付いてるようだったけれど。

とっくに陽は沈んで、この暗さで谷を降りるのは少々恐怖を感じる。
魔獣も居るし踏み外しそうだ。 ・・いや、魔獣は彼が居るから無問題か。

峡谷を降りて合流街道まで戻ってきた時、私は思わず口をぱっかりと開けた。

街道の分岐点となるスペースに、赤い飛空挺がでんっと居座っている。
周囲とあまりにも不釣り合いな様子に違和感ばかり。

聞けばこの赤い飛空挺がグロリアスの子機だと言う。

・・・身喰らう蛇というのはまたこんなものを・・・・
ほんと一体どんな組織なんですか・・・

遊撃士達は『これ』を相手するのだから、
立ち位置中途半端な自分はどうにも口ごもる。


小機に乗り込むと右手前に座れるスペースがあり、
早々、レオンさんは席に座ったので後を追いその右隣に腰を下ろした。

彼は顔を上げて、窓に頭を当て、深い溜め息をついた。

・・・古代竜のは相当来たらしい。 かなりお疲れのご様子だった。
大丈夫かな。 心配するように様子窺うとふと視線が絡む。

彼は紫色の瞳を一瞬細めると瞼を伏せ、
レオンさんが窓に預けていた頭がずるりと滑った。


「え。 うわ、 わ」


ずるずると滑り、彼の頭部は私の肩に乗っかった。
困惑のあまり宙に浮いた手がひくりと行き場を失くしていた。

あ、うわ、これ、凄い緊張する。
どうされたんだろう。 そんなにお疲れなのかな。

離れないということは多分意図的だったのだろうと思う。
レオンさんは肩に頭を預けたまま、大きく息を吐いた。

思ったより人の頭部を肩に預けられるのは重い。
余計なことを考える余裕があるなら思ったより冷静か。 緊張はしてるけど。


「・・・相当お疲れのご様子で」
「・・多少は」
「あの、 その体勢で休むんです? 首痛めそうな、」


その質問に返事がされることはなく、
また深く息を吐くのが聞こえるだけだった。

・・・うー、ん。 少し考えるようにして右頬を小さく掻く。

どうすればいいんだろう。 触らずにそのままにしてあげた方がいい?
いや、でも、そもそも私の方が身長低いんだからバランスは良くないはずだ。

困ったな。 少し眉を寄せて視線を落とす。
・・・あ、あるじゃん。


「レオンさん、よろしければこちらに」


ぽんぽんと太腿の上叩くと、彼が少しだけ身じろぎ音の先を見た気配がした。

合間無く今度は小さい溜め息が聞こえた。
思わず苦笑が自分の表情にも出た。 やっぱりナシ?


「・・・お前な」
「あはは、流石にダメですか」
「褒められるのは苦手なのに膝枕はいいのか」
「自分から提示する分、余裕があります」


笑いながら答えれば、また小さく息を吐いた気配。

・・・言ってはみたものの、これは流石に来ないかな?
今のはお疲れの方の溜め息じゃなくて、呆れた方の溜め息かな。

と思った矢先レオンさんが少しだけ起き上がった。
肩の重みがなくなり、代わりに座っている太腿に頭部の重み。

言い出したのは自分ではあるけど、思わず瞬きを繰り返した。
・・・これまた珍しい、初めてなのでは?


「寝る」
「はい、おやすみなさい」
「到着前には起こせ」
「はい」


彼はまた大きく息を吐いて、しばらくもすれば寝息を立て始めた。
行き場のない左手をレオンさんの肩の上に添えるように乗せる。


「・・・お疲れ様です」


右手でレオンさんの髪に軽く指を通した。
白銀の髪は大変綺麗。 髪質はちょっとだけ硬めかな。

・・・彼が眠っているところを見るのは珍しいな。
今まででも数えるくらいかも。

内1回は・・・あ、いや、思い出さないでおこう・・・
顔の前でぱたぱたと手を振って記憶を掻き消す。

少しだけ熱を帯びた頬に、手を振って風を仰ぐ。

レオンさんの様子を伺うのに少し曲げていた背を伸ばし、
壁に凭れ掛かって窓の外の様子を伺う。

艇はそれなりに飛んだのか、飛び立った街道からは大分離れていた。

・・・古代竜事件は結局どのように落ち着くのだろう。
そんな心配を胸に、私も瞼を閉じた。





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ