小説

SC F
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甲板端での穏やかな時間



彼女の所在が気になり、甲板に出ているのかと思い様子を見に来れば、
甲板に出てすぐ見渡せる場所に彼女の姿はなかった。

ふと、扉が飛び出した死角となる場所に、
彼女が最近居座ることを思い出し、そこに顔を覗かせる。


「・・・・」


・・・居た。

桃色の混じったオレンジ色の綺麗な髪は風で靡き、
美しいまでの翡翠色の瞳は閉じられ、彼女は壁に背を向け俯いている。

どうやら俺が来たことに気付いていない様子だが、
本当に眠っているのか、瞼を閉じているだけかの判断が付かない。


「フィアナ」


眠っているなら声量で起こしてはまずいと、
声量を抑えながら彼女の名を呼ぶ。

ゆっくりと一拍開いてから、彼女の目が開いた。
細められた翡翠は眠そうに瞼に手を当て、俺を見上げる。


「・・あら、レオンさん」
「起こしたか」
「いえ、うとうとしてただけで、意識はあって。
 レオンさんもお休みですか?」
「そんなところだ」


返事をしながらフィアナの隣に腰を下ろす。

背後にある壁の先は艇内で、甲板の死角ともなるこの場所は決して広くない。
俺が足を伸ばしてギリギリもいいところだ。

先日、何故こんなところに居るのかと疑問に思い聞いてみれば
「広すぎず狭すぎない場所だから・・かな?」と曖昧に疑問形で返された。

言うほど深い意味はないらしい。

・・あぁ、でも日差しが入りづらく目に直射しないという利点はあるな。
冬はさておき夏の外にしては案外涼しく意外と穴場なのかもしれない。

ふとフィアナの手が被せられた、彼女の脚の上。
羽に包帯が巻かれた鳥が居ることに気付いた。


「・・その鳥は、」
「グロリアスと衝突しちゃったらしくて。 甲板に倒れてたんです」

「怪我をしていたのか」
「衝突の際に、何かに引っ掛けちゃったのかも。
 血が出ていたから手当てして・・寝ちゃったようですね」


自分の問いに1つ1つ丁寧に答えていくフィアナの声を聞きながら、
片方の羽に包帯が巻かれている鳥を見つめる。

フィアナは指先で触れるように鳥の頭を撫でていた。
鳥は気持ち良さそうに眠っている。


「フフ、随分懐かれてるな」
「かな?」


鳥を愛しげに眺めながら微笑む彼女を一目見てから、塀越しに空を見上げた。

本日も驚くほど快晴だ。
彼女を拾った日がそこそこ豪雨なのが不思議なほどに。

ふと視界の端で、フィアナが顔を上げたのが映った。


「レオンさん、いつまでここに居ます?」
「そうだな・・1時間くらいならば」
「んー、」


彼女はふと悩むように顎に手を当て。
背後の壁に頭をコツンと当て、笑いながら俺に話しかけた。


「じゃぁ肩借りていいですか?」


背後の壁からズルズルと滑り落ち、俺の肩にこつんと彼女の頭が乗っかった。
フィアナの表情を窺うと、既に瞼は閉じられていて。

・・・・・こいつは、


「・・断らせる気が無いだろう?」
「えー? なんのことでしょう」


瞼は閉じられているものの確信犯めいた笑みに、小さく息を吐く。
この女はこういう節がある。 知っていた。

「1時間だけだぞ」と腕に掛けていた上着をフィアナの膝に掛けた。

彼女は目を瞑ったまま小さく笑い「はーい」と少し間延びした返事をし、
上着を膝に掛け直したその後、すぐに寝息を立て始めた。

そういえば俺もしばらく休んでいないか。

・・・気付いていたか? ・・・まさかな。
・・いや、フィアナならあり得る。 彼女は予想以上に鋭い。

鳥の上に手の平をかぶせ、眠るフィアナを見てから1つ息を吐き腕を組んだ。

たまにの1時間なら休んでも罰は当たるまい。
実験は予定通り終えたんだ、咎められやしないだろう。

吹き付ける風を肌に感じながら、瞼を閉じた。


その後、一眠りしている2人が一部兵士に目撃されたとか、されてないとか。



(おっ・・・お・・・? れ、レオルハルト様寝てらっしゃる・・・?)
(あ、奥にフィアナ様・・あっ、これ邪魔しちゃまずい奴だ)
(全員撤退、極力静かに)





 
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