小説

SC F
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成人執行者と過ごす昼前



朝方からどうも執行者の方を見かけない。

廊下で偶然会ったカンパネルラさんに彼らがどこに居るかと問えば、
「会議室で飲んでるよ」なんて意外な返答をもらって。

・・・昼ご飯も食べてないのに・・・?
こんな時間からお酒・・・?

・・大丈夫だろうか。
もしかして心配するだけ無駄だったりするのかな。

なんとなくお酒強そうですもんね、あの方達。

レオンさんも居るのかな、なんて少し考えて。
様子を見ようと会議室の扉に3回ほどノックしてから扉を押した。

扉を開いてすぐ鼻につんと来たワインの香り。


「どうも。 こんな真昼間から皆さんお酒ですか?」
「あら」
「フィアナ」


扉から顔だけ出して、部屋の様子を伺う。

細長い黒のテーブルに、レオンさんとルシオラさん、
そしてブルブランさんとヴァルターさんの4名。

皆グラス片手に、ケロリとした顔をしてる。
あれ、思ったより平気そう。 飲み始め?


「フィアナじゃねぇか。 ックック、まぁお前も来いや」
「えぇー・・・私あんま強くないんですけど」


苦笑いしながら中に入り、扉を閉めてテーブルの方へ歩き出す。

レオンさんは扉の手前の方に座っていて、
その向かいにヴァルターさんが瓶を脇に置いてた。

因みにそのヴァルターさんの隣にルシオラさん、
その向かい、かつレオンさんの左隣がブルブランさんだ。

ルシオラさんが呆れたように溜め息をつく。


「流石にやめた方がいいと思うわ・・・」
「全くだ」
「・・えっと、ここのお酒事情を知らない私に説明を」


レオンさんの隣の椅子を引いて席に座る。

どこから出てきたのか、ヴァルターさんは「おう」と一言、
私の目の前にグラスが差し出して。


「見かけより彼ら飲んでるよ」
「・・・わぁ、」
「ヴァルターのおかげでペース早いし、昼もまだだろう?
 あまりお勧めできないがね」


ブルブランさんの忠告を耳に・・・なんて人だ。

お勧めされてるようには見えないが、
全く勧めていないようにも見えない。

彼はそう説明し終えて、グラスに口をつけた。 食えない人だ。


「多分フィアナ、一瞬で潰されちゃうわよ」
「えっ」
「・・アルコール絡みのヴァルターに付き合うのは勧めないがな」
「・・・そんなに折り紙付きなんですか」


そう言う彼らはヴァルターさんに付き合ってるそうだけど大丈夫だろうか。

心配げに顔を上げると隣に座るレオンさんと目が合って
「耐性は付いてる」と小声で返答が来た。

なんてことでしょう・・耐性付くくらい付き合ったんですね・・?


「でもせっかくですし・・1杯だけ、」
「よし来た。 これは土産で買ってきた共和国産の酒でな」
「へぇ、やっぱりリベールのとは違うのですか?」

「ま、飲めば分からぁな。 お前も一口飲んでみ」
「ひ、一口どころじゃない量が注がれてるんですけど・・!?」


す、ストップ! と慌てて制止を掛けて、
ヴァルターさんは更に数秒してから注ぐのをやめた。

クックッとさぞ愉しそうに笑いながら。

・・・わ、わー・・グラスめいっぱい入ってしまった。


「こ、これは予想以上に・・」
「もう、だから言ったのに」
「ふふ、酔い潰れないように。 飲み干すと次が来るぞ」


軽い注意に頷きつつ、グラスを両手で包み周りを見た。
相変わらず皆さんけろっとした顔で飲んでらっしゃる。


「皆さんはアルコール強い人達ですか?」
「楽しめるうちはいくらでも」
「私はそこそこ強いらしいわ」


つまり楽しめたら延々とザルってことか、凄いなブルブランさん。
ルシオラさんも案外ケロッとしてるし言葉通りなのだろう。

・・レオンさんはどうなんだろう、と
隣に座る彼とちらりと見上げた。

レオンさんが私に気付いて左手に少しだけ酒が残ったグラスを揺らした。
グラスの中で波立つ酒を眺めてるようだ。


「・・嗜む程度には」
「クック、レーヴェ相当強いじゃねぇか」
「そうなんです?」
「ヴァルターほどではない」


ふむ。 強さ順だとヴァルターさん、レオンさんってとこか。
ルシオラさんとブルブランさんはどっちが強いか分かんないけど。

・・いや、下手したらブルブランさん最強説ある?


「そういうフィアナは?」
「度数にもよるんですけど・・私は1、2杯で充分です」


というかあまり酔いたくないので控えてるんですけど。
と、苦笑いしながら注がれたグラスに一口、口を付ける。

レオンさん越しにブルブランさんの笑い声がした。


「ふふ、それでは飲み終えたらすぐに出て行くことを勧めるよ。
 ヴァルターに潰されたくなければ、ね」
「あはは、そうします」

「テンメー、ブルブラン余計なこと言うんじゃねぇよ」
「やだ、潰す気満々じゃないですか」
「早く飲んでお逃げなさい」


可笑しそうに高く笑うルシオラさんにつられて笑う。
グラス両手に包んだまま、室内に笑い声が増えてく。


「お前らなぁ、奢りなんだぞ?」
「だから付き合ってあげてんじゃない」


そういえば共和国行っていた時に。
先日新発売お酒を見つけて、味が。

会話が世間話に変わっていく中、
注がれたお酒を一口飲んで、会話している彼らを見た。

その姿に小さく笑う。


「執行者と言えどもやはり人間ですね。 ・・・ほっとします」
「・・俺が心配したより、彼らと仲は良好のようで安心した」
「おかげさまで。 ありがとうございます」


そう言えばレオンさんは小さく笑って、グラスに残ってたお酒を飲み干した。

あまりのいい飲みっぷりにちょっと驚いた。
思えば彼がお酒飲んでるところ今日初めて見た。

レオンさんは私の手元にあるグラスに視線を投げる。


「・・ペースゆっくりだと注ぎ足しが来るぞ」
「あ、はは、でも私、一気飲みはあまり・・・」
「・・・グラスは常に持っておけ、注がれづらくなる」
「ふふ、はい」



(にしても1杯とは言え、フィアナがお酒飲むのは意外だったわね)
(俺も初めて見た。 意外と飲むのか?)
(言うてそんな、まだ両手で収まるほどの回数しか飲んでないんですよ。
 しかも弱い方だから、軽くて甘いのを好んで)

(なら果実酒は好きかな?)
(度数低ければ結構好きです。 それでもあまり量は飲めないんですけど)
(・・・今度コイツ用に果実酒買うかぁ)
(あ、これ次回も巻き添えですか?)





 
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