小説

SC F
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中立と迷子のコンタクト



レンちゃんがギルドにやってきた。
親に置いていかれた、ことを匂わせるには充分過ぎるものを携えて。

遊撃士達は・・彼女達はレンちゃんの親が見つかるまで保護すると判断し、
今日はレンちゃんも共にホテルに泊まることになった。

当然のようにお邪魔している私は、どんな心境で。

相部屋のティータちゃんを起こさないようにと、
ベッドからゆっくり下り、ホテルの一室から出ていく。

ホテルとはいえ真夜中、電気もほとんど消えていて、
月明かりだけが差し込む薄暗い廊下を歩く。

エステルちゃんの部屋の前で、小さな人影が窓越しに空を見上げていた。


「・・・レンちゃん」
「あら、フィアナ。 眠れないの?」
「寝てたんだけど、ちょっと目が覚めちゃって」


苦笑いしながら、レンちゃんの隣に立つ。
彼女は「そっか」と呟いて、また窓を見上げた。

それに釣られて私も顔を上げる。
・・あ、丸い。 ほぼ満月であろう月が窓の正面から見えた。


「ねぇ、レンちゃん」
「なぁに?」
「・・今回グランセルに来たのって、やっぱり実験しに来たの?」


月から目線を外し、隣に居るレンちゃんを見つめる。
レンちゃんも窓から視線を外し、顔を上げて私を見て少しだけ笑った。


「そうよ。 レン、今回はお仕事しに来たの」
「・・・そっか」
「・・それだけ?」
「うん、それだけ」


やっぱりか、と小さく息を吐いた。
彼女がグランセルに来た時点でなんとなく察しは付いていたんだ。

詳しいことは聞かされてない。 聞いてもない。

ルーアン、ツァイスと来て今回の舞台はグランセル。
偶然か狙っているのか、どうもリベールを逆周りしてるようだった。


「ふーん・・・でも予想くらいはしてたでしょ?」
「そりゃ、まぁ。 でも確信もなかったし」
「うふふ。 フィアナが考えてることって結構当たってるのよ」


時々びっくりしちゃうぐらい鈍いけど、 と付け足し、
クスクスと笑うレンちゃんに疑問符が浮かぶ。

何に対して当たっていて、何に対しては鈍いのか。
あ、でもこれは聞いても答えてくれなさそうな雰囲気だろうか。


「それにしてもフィアナってよく分かんないわね」
「え?」
「だって気持ち的にはギルドの味方って言って手助けしてるのに
 レンが執行者だってこと、言ってないのでしょう?」


その言葉に、あぁ と頷いて空を見上げた。

うーん、まさか『よく分かんない』と捉えられるとは。
少しだけ苦笑いをして小さく息を吐いた。


「・・全てを知っていても、結社の情報は一切口外しない。
 その代わりギルドの情報も流さない。 そういう約束だったからね」


ギルドの手伝いはしたい。
結社には彼が居るから一概に切り捨てられない。

そんなジレンマを抱えながら、ギルドの様子を見たいことを伝えた。
そしたら意外にも返事は予想よりも良いものだった。

流石に無制限というわけには行かなかったけど。

ただ言われたことと当て付けた約束を守り抜いているだけで、


「でもレンはそんな約束してないわ。 いつだって流せちゃうわよ?」
「それは貴女が組織の人間だからだよ。
 私はそうじゃない。 だから、約束をしてる」


そう言って、頭1つ分くらい小さいレンちゃんを見た。
レンちゃんはずっと私を見上げていたらしく、目が合うのは容易だ。

少しだけ驚いたような表情の後、
レンちゃんは年齢に似合わぬ落ち着いた笑みを見せた。


「ふふっ、レンね。 フィアナのそういうとこ好きよ」
「・・・光栄です?」





 
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