小説

SC F
5ページ/42ページ




報告後に定義される約束



夕方頃までツァイスでクローディア殿下や、他の遊撃士達と話をしながら、
「すみません、そろそろ」とその場から立ち上がった。

「外出ですか?」と訊かれ、「人と会う約束をしていて」と答えて。
明日また会う約束をしてから気をつけてと見送られた。

弓と鞄を片手に、地元であるツァイスを出てリッター街道へと向かう。

街道を歩きセントハイム門へと。
門が見える直前、街道から外れて生い茂る木々へと滑り込んだ。

木々の隙間から門の壁が見える森の中、
捉えた彼の姿は腕を組んでいて、近づいた私に向けて顔を上げた。


「お前が遅れるのは珍しいな」
「すみません、ちょっと話が盛り上がっちゃって」
「・・そういえば地元か、まぁいい」


組んだ腕を解き、私の姿を一見するレオンさん。


「・・怪我は無いな、短期間でそれなら充分だろう」
「ふふ、おかげさまで。 大方逃げてることも多いんですけど」
「ふ、戦略的撤退というものだろう? 問題ない」
「物は言いようですね」


口元に手を寄せてくす、と笑うと、また彼から普段の笑いがした。

視線を上げてレオンさんを見上げる。
木々の隙間から、私の背後から射す夕陽に照らされる彼の表情。

私が口を開く前に、彼が切り込んだ。


「何か言いたそうだが」
「・・よくお分かりで」


先手を打つように掛けられた声に、肩を下げて笑った。
逆に話がしやすくなったと思うべきか。

・・少々言うのが憚られるな。
浅く息を整え、彼を見上げ小さく微笑んだ。


「遊撃士達と接触したんです」
「・・ん」


す、と細くなった紫色の瞳。
鋭い視線、では無いけれど明らかな反応だ。

一呼吸置いて、少しだけ俯く。


「いろんな話をして、結社の事件に関わったことも少しだけ耳にして。
 ・・・やっぱり、私の意志はこっち側だなって再認識してしまって」
「・・まぁそうだろうな。 お前は結社に居る方が不思議な人間だ」


彼の返答に小さく微笑んだ。

理解された上で残された私が、どれほど恵まれているかを知っている。
その上で、私が告げようとしてるのは、ある種裏切りなのかもしれない。

裏切りも何も、結社の味方をしているわけではないけれど。

「それで、その」と続けた声を、レオンさんがじっと耳を傾けていた。


「・・何かしらの形でギルドの助力になりたい、なんて。
 思ってるんですけど・・・許されるのかな、」
「・・・」


眉を下げては、不安混じりに問うてみる。
彼からは動揺らしい反応はなく、静かにそれを聞いていた。

・・・静寂、
吹き付ける風が木々の葉を揺らしていく。

最中、彼は小さく息を吐き出しては呟くように紡いだ。


「・・大方予想通りだな、こうなると思ったさ」
「え」
「お前ならそう言うのだろうと」
「えっ」

「だから、答えも既に用意してある」


向けられた笑みに思わず瞬きを繰り返した。 なんて用意周到な。
この後続くだろう回答を口を噤んで待つ。


「ギルドの手助け自体は構わない。
 ただし計画の妨害と、情報流出の一切を許さない」
「・・・・」
「それが絶対条件だ。 細かい基準は都度回答する」
「・・分かりました」


許可が出るとは思わずにしばらく瞬きを繰り返していた。
驚愕を抑えて、一度了承の言葉を出す。

・・・許可出るんだ。 驚いた。

ふ、と口元に笑みが浮かんだ後、約束を定義するならばと思い顔を上げる。


「では、その約束にもう1つ追加いいでしょうか?」
「?」

「彼女達の情報も結社には一切流さない。 ・・・よろしいですか?」
「・・・フ、律儀だな。 いいだろう」
「ふふ、ありがとうございます」



(この後はどうする?)
(今日という話であれば特に予定はない、んですが。
 また明日皆と会う約束をしていて)
(ならあまり離れない方がいいな)
(・・レオンさんはどうするんですか?)

(別件。 黙秘にしておく)
(ん。 ふふ、ミステリアスな人みたい)
(ふ、 もう暗くなる、帰るなら早く行け)
(はい。 では、また今度)





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ