小説

F〜S間 F
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検討の理由提示と返事



朝ご飯が終わって1時間くらいしてから、
私はずっと拠点の中で、彼の姿を探していた。

キッチン、自室、拠点の外。

若干建物の中を迷いつつ、彼の姿を見つけたのは、
談話室のようなゆったりした部屋の扉を開けてからだった。


「あ、レオンさん見っけ」
「・・フィアナか」


顔を上げたレオンさんと目が合う。

淹れたばかりであろう湯気が立つコーヒーの入ったコップを左手に持ち、
ソファに座る彼の足の上には新聞。

その姿を確認してから、重い扉を閉めて部屋の中に入った。


「今お時間あります?」
「ご覧の通りだが。 どうした?」


コーヒーを小さく持ち上げた様子に、少しだけ笑った。
暇を持て余しているそうだ。

息を吸って、深呼吸。

深呼吸の際に瞑った目を、少しだけ開いた。


「先日、紺碧の塔付近でお話した内容を覚えているでしょうか」
「・・あの話か」


小さく息を吐いたレオンさんは、コップを右手に持ち直し、
彼の左側にある椅子を1つ後ろに引いた。

座れ、と促されたらしい。
お辞儀を1つして、1人用のソファに腰を下ろす。


「検討はどうなった」
「なんと言いますか・・・そうですね、」


何から話していいものかと、口元に手を当てる。
伏せた瞼を5秒とせず上げて、膝の上に組んだ手を置いた。


「貴方が仰ってた通り、私は戦えなくていいと思ってました。
 必要に感じたことがないので。 ・・というか、
 武器がなくても、物事はある程度穏便に解決できると信じてました」


顎を引いて組んだ手を見つめる。

どこまで言えばいいだろう、何を言えば伝わるだろう。
思考を巡らせながら、少しずつ言葉を選んで挙げていく。


「無理を言って、エルベ離宮に何度かお邪魔したでしょう?」
「あぁ」
「・・・人質になってる方達や殿下を見て、
 何も出来なかったのが・・・想像以上に辛くて、」


少しだけ顔を上げてレオンさんの顔を見る。

ちょうど今飲み干したらしいコーヒーが入っていたカップを、
前屈みでテーブルの上に置いた様子を見つつ、言葉を繋げる。


「考えが変わるきっかけとなったのは、これだと思います。
 私が戦えることで、誰かを救えるかもしれない・・・
 そう考えたら、居ても経ってもいられなくて、」


返事も相槌もせず、ただ聞いている様子のレオンさん。
少しだけ私に目を見やった。

軽く握り締めた拳を胸に当てる。


「私に出来ることを、精一杯やりたいんです。
 『もしかしたら』という可能性を潰したくない」


しっかりと私を見据えていたレオンさんを見上げて、
腕を少しだけ下ろして短く息を吐いた。

少しだけ眉を寄せて、苦く笑う。


「だって・・、人が死なないに越したことはありませんもの」
「・・・!」


私の言葉に少しだけ目を開いたレオンさん、

言うか言うまいか迷った一言だった。

彼が何を考えたのかは分からなかったけど、
レオンさんから聞いた過去はとても悲しい話で。

思い出させてしまうのでは、とか、逆に断られるのでは、とか。

『自らも守れんのに何が出来る?』

いつだったかレオンさんが私に向けた厳しい言葉。

無論戦うことで、降りかかる危険は倍増するだろう。
それを承知で、私はこの考えに至った。

あの時の私は、自分の命が誰かの救いになればいいと思っていた。
けど私が戦えて、自分も無事で誰かも救えたら。

これ以上に良い結末はないと、そう思ったの。
・・・欲張り、かもしれないけれど。


「・・死んでしまうより、全員生きてハッピーエンドの方が、
 後味悪くならなくていいじゃないですか」
「・・・・」
「・・・こんな理由では、薄いでしょうか?」


息が詰まるような苦しさに、薄く息を吐き出す。

レオンさんは、私の目を見てから
ソファにもたれ直して、軽く顔を上げて息を吐いた。


「やはりその類か。 予想を裏切らない点ではお前らしい」
「・・・・」
「・・いいだろう。 先日言った通り、剣以外は専門外だが」
「・・・えっ、」


了承と思わしき発言に、反応が一拍遅れる。
若干眉潜める様子のレオンさん、


「い、いいんですか?」
「・・どうせ止めても、最終的には自分でやりだすだろう。
 早いか遅いかの違いなら当然早い方がいいし、師が居た方がいい」


半ば呆れ顔で、口元だけ笑った彼に胸を撫で下ろす。
山場1つ越えたみたいで、深呼吸をしてからお礼の言葉を述べた。


「ありがとうございます。 はぁ〜・・・
 断られないかとずっと冷や冷やしてて、」
「フ、 そもそも教えないと言った覚えはないが」
「・・・そういえば言われてないです」


思わず顎に指を当てて記憶を遡る。
うろ覚えなとこもあるが、確かに言われた記憶はない。

俯いてレオンさんとの会話を思い出していた私の視界に、
彼の手が伸び、横髪がすくわれたのを見て顔を上げる。


「?」
「・・何故お前のような娘が、俺から離れないのか、不思議でならない」


髪がすくわれたまま、レオンさんを見、
独り言のように呟かれた言葉に、瞬きを繰り返す。

その後、私はすぐに笑った。


「どうしてでしょうね。 理由はご存知の通りですけれど」
「・・・呆れるほど揺らがない奴だな」
「あら、褒め言葉でしょうか」





 
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