小説

F〜S間 F
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持論展開行われる昼下り



昼食から少々時間が経ち、小腹がすきそうな気配がしたからという理由で。

拠点のキッチンを拝借してタルト生地を作り、
オーブンに入れてからしばらくが経った。

キッチンだけは自由に使わせてもらって、お菓子とか定期的に作って。
ご飯担当も既に大体私で固定されつつある。

拠点に来てすぐ、「お前は作る量が少ない」とか言われ、
前日の1.5倍の食材を渡された時は目を丸くしたのも懐かしい思い出だ。

・・そんな彼と出会ってから、2ヶ月くらい経っただろうか。

そろそろ頃合いかな、と予想してキッチンに戻り、
オーブンを見れば焼けるまで後10分を指していた。

まだしばらく掛かるけれど、10分ほどなら
ここで待っててもいいかもしれない。

キッチンから少し歩いたところに設置されているテーブルまで移動し、
机の下に戻されている椅子を引いて腰を下ろす。

席に座って早々、ふと顔を上げて入口を見てみれば、
レオンさんがひょっこりと顔を出して、様子を伺っていた。


「わ、」


思わず驚きの声が1つ。

私の反応にレオンさんは気にしない様子で、コートのポケットに手を入れ、
キッチンを見渡しながら入ってきた。


「どうかされたんですか? 夕飯ならまだ・・」
「甘い匂いがしたから様子を見に来たのだが」


彼はそこまで言いかけると、稼動してるオーブンに目を向けた。


「・・何か作ってるのか?」
「小腹がすく気がしたのでタルト作ってるんです。
 夕飯前だから、そんなに大きくはないんですけど」


レオンさんは私の経緯を聞きながら、向かいの椅子を引いて腰を下ろした。
そんな様子の彼を見ながら提案1つ。


「半分くらい食べます?」
「・・自分で食うために作ったのでは?」
「オーブン入れた時に大きく作りすぎたかなって思ってて。
 苦手でなければ、手伝ってくださると助かるのですけど・・・」


手を合わせて頼むようにそう言えば、
少しの溜めと「なら頂こうか」と短く了承した彼の言葉。

レオンさんの返事に少し安堵して笑みを浮かべる。


「唐突だが、1つ聞いてもいいか」


突然発せられた声に、少しだけ瞬きを繰り返す。
・・唐突なのは今に始まった話ではないけれど。

少し驚いた表情をしつつも「どうぞ」と短く促した。


「お前は察しのいい人間だが」
「らしいですね」
「俺のことはどれほど知っているんだ?」
「・・・はい?」


唐突な質問から突然の内容が飛び出て、返答は若干裏返った声。
彼は何も動じず、私をじっと見つめて回答を待っている。

これは彼の抱えるものについて、の意味で聞かれてる、のだろう。
・・・そこまで察しはついたものの、口から出てくる言葉はない。


「いや、えぇ・・・そんなの聞いちゃうんですか、」
「その反応はある程度予想は付いてるといったところか」
「どうでしょう、所詮予想ですからね」
「・・・・思ったより食えない奴だな」


若干眉を寄せたレオンさんに、ちょっとだけ笑った。

少なくとも軽く口にしていい話題ではないな、と思っている節がある。
・・・そこまでやわい人だとも思ってないけれど。

小さく息を吐き出した彼を見て呟く。


「流石に詳細までは分かりません。
 でも、だからってわざわざ知ろうとは思わないかな」


彼への質問の答えになるかは分からないけれど、と。
少しだけ目を伏せ、思ったことを少しずつ述べていく。


「誰にだって言いたくないことの1つや2つあると思うんです。
 気を許した相手にでさえ、寧ろ許したからこそ言えない話もあるでしょう」


そう言うと彼は少しだけ眉を動かした。

・・・私は過去起こったことに、心に傷を負ったとか、
そういった「何か」があった身ではないけれど。


「・・貴方が何故、今その質問をしたのかは分かりません。
 一般心理で考えれば『話すに値する人間』に割り振られたのかな、とは
 思うんですけど・・・私は聞き出したいわけではないですし、」

「・・・もし、そうだとしたらどうする?」
「もしそうだとしたら、・・・どうしましょう、」


私が言い終わるのを見計らっていたかのように、オーブンが音を鳴らした。

一瞬だけ音の鳴ったオーブンの方にふと目を向け、
テーブルに両手を付き、椅子を膝裏で押して立ち上がる。

椅子をテーブルの下に戻すと、続くように彼も立ち上がった。


「・・まずは、聞きますよ。 私にどこまで理解できるかはさておき、
 例えそれがどんな内容でも、語られる話を最後まで」


オーブンを開けて型に嵌ったタルトを取り出すと甘い匂いが辺りに広がる。
上手く焼けたみたいで、食欲をくすぐる。

キッチン台に置いていたまな板の上にタルトが嵌った型を置く。

私の様子を見る右後ろに立った彼を視界に収めるように顎を引いて。


「逃げも拒みも嫌いもしないので。
 ・・・話したくなった時に、いつでも話してください」


後ろで手を組み、目を細めていつものように笑う。
レオンさんは、何か言いたげに口を開いて・・・噤んだ。


「私からは以上です。 さて、タルト切りましょうか」


組んだ手を離してまな板に体を向ける。
少しだけキッチンを見渡し、すぐそこにあった包丁を見つけて手に取った。

右後ろで息を吐き出すような気配。


「・・・1を聞けば10を答える人間だな、お前は」
「ふふ、喋りすぎましたけど。 まぁ、たまには」
「・・そうか」


薄く笑われたような反応に、私は包丁を握ったまま。

反応からして彼の口から過去が語られるのは、
もう少し先かと思われたが、案外意外。

数日後、それを語られるなんて誰が予想しただろう。



(・・・・)
(・・レオンさんって案外なんでも食べますよね)
(好き嫌いが激しいようにでも見えるか)
(そういうわけでは。 ・・甘い菓子食べる姿が少々可愛いな、と)

(・・・・・)
(凄く怪訝な表情をされてしまった)





 
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