小説

F〜S間 F
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どっちも風呂上りだった



小説一冊片手に、彼の部屋の扉をノックする。


「レオンさん、居ますか?」


帰って来たのは彼の返事ではなく、
ガシャッという音と共に開いた扉だった。

ひょこっと顔を覗かせると、コート羽織っていないレオンさんが
ベッドの端に座り、リモコンをこちらに向けていた。

入れってことらしい。
小さく会釈して彼の部屋の中に入る。

彼は私が部屋に入ったのを確認してから、
リモコン操作して扉を閉めた。

扉の開閉が自由なんて便利なリモコンですね・・・ツァイスにあったっけ。
レオンさんは自らの横にリモコンを置いて、再度私へと顔を上げた。


「どうした?」
「お借りしてた小説、先程読み終えたので返しに来ました」


そう言って片手に持ってた小説を見せる。
あぁ、と思い出したように立ち上がって。


「と、できれば続きの巻をお借りに」
「・・面白かったか?」
「とっても」


あ、でも思ったより人が死んでく作品でした。
と苦笑いしながら言えば「だろうな」と。

私が持っていた小説を回収して、彼は本棚に向かう。
その後ろを着いて歩き、濡れて雫が落ちる髪を見ていた。


「レオンさん風呂上りでした?」
「つい数分ほど前に」
「あ、やっぱり?」


そう言って差し出された小説に、
ありがとうございます、と一言添えて受け取る。

テーブルの傍にある椅子の上に、バスタオルが掛かってるのに気付く。


「レオンさん、ちょっと」
「?」
「座ってくださいな」


テーブルの上に今借りた小説を置いて、
椅子に掛けられてたバスタオル回収して腕に掛ける。

レオンさんは怪訝そーな顔しながら、椅子に座った。

向かいから彼の頭にバスタオルを掛ける。


「・・小まめな奴だな」
「流石に風邪引いちゃうかなと思って」


てかこれほとんど乾かしてないですね。
それ以前にまず乾かそうと思ったのだろうか。

バスタオルを彼の髪に当てていると、手持ち無沙汰だったのか、
レオンさんが私の髪に手を伸ばした。


「・・・お前の髪も乾ききっていないな」
「長いからか乾きづらいんですよね、」
「ドライヤーならあるが」
「えっ、ほんとですか。 初耳」


流石にこの部屋にはないがな、と付け足したレオンさん。
どうやら別の部屋にあるらしい。

・・・別の部屋ってどこ?
私は未だに拠点内の地図を把握していない。


「でもそこまでしないかも・・手間ですし」
「ツァイスに居た頃もそうだったのか?」
「わりと?」
「・・・勿体ない。 綺麗な髪だというのに」


思いがけず言われた言葉に、ぴたりと手が止まる。
え、今 なんと。


「き、 綺麗な髪・・?」
「だろう?」
「・・・・」
「何故黙る」


レオンさんが顔を上げて、私の顔を見て小さく笑った。
笑われた。 いや、今それどころじゃ

え、てか髪が綺麗って 初めて、言われた、のだけども、
ていうか あっつ、

左手で口元を覆ってしゃがむ。


「〜っていうか、もう、今のは流石に不意打ちです・・」


膝の上で腕を組んで、その腕に額を当てるように俯く。
頭上から短く息を吐くのと、小さく笑ったような声が聞こえた。


「女ってのはよく分からんな」
「・・・まさか女で一括りにされるとは」


腕から少しだけ顔を上げると、頭にぽんと軽く手が乗っかって、
私の前を歩いていく後姿が見えた。

バスタオルは椅子に掛け直したらしい。


「フフ、いつまで拗ねている」
「別に拗ねてませんってば、」
「今日は行かないのか?」
「・・・行きます」


しゃがんでたのを立ち上がる。
少し足が痺れてよろけてしまった。

テーブルの上に置いてた小説回収して、
既に扉の前で待ってるレオンさんに追いつく。


「もしかしてレオンさんも空見るのが好きとか」
「好きかどうかはともかく、よく見上げてる気はする」
「ですよね」

「・・・その本持って行くのか? 外では読めんだろう」
「あー、いや、大丈夫です。 荷物ってほどじゃないですし」
「・・そうか」





 
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