小説

F〜S間 F
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髪を気にかける剣帝



フラリと廊下を歩いているフィアナを呼び止めて、
ソファに座らせたのはつい数分前の話。

呼び止められると思わなかったのか、「え」と一言
目を真ん丸くさせた時の表情は正直面白いと思った。

共有スペースに入り、彼女を適当にソファに座らせ、
滅多に利用しない引き出しを開け、くしとドライヤーを取り出す。

どうやらこの娘は風呂上りに髪を乾かす、
くしを通すということをしないらしい。

今だって半分も乾ききっていない。

呆れて溜め息をついて、半ば無理矢理
彼女の髪にドライヤーを当てているのが現状だ。


「・・全く」
「あ、はは すみません・・」


くしを通すか髪を乾かすかどっちかはしろと先日言った。
それで今日のこれだ。

溜め息をついて、フィアナの髪を掬う。
髪質が柔らかいのか、掬った瞬間滑り落ちる。

もう一度掬い、ドライヤーをソファの上、
フィアナの隣に置き、くしを通した。


「・・・フィアナの髪は綺麗だな」
「・・・先日もそんなことを言っていましたね。
 自分じゃよく分かんないんですけど、」


フィアナの横髪を後ろに持っていき、その髪にもくしを通す。
髪に指を通しては、またさらりと滑り落ちた。


「色もいいし触りもいい。 髪も細いし枝毛もない。
 女なら粗方の奴が憧れる髪質だとは思うが」
「・・べた褒め」


控えめに笑ってる声が届く。

随分と遊ばれそうな髪、と思ったのは黙っておいた。
レンやルシオラ辺りがおもちゃにしそうだ。


「だからこそお前が手をつけないのが勿体無いと思う。
 せっかくの綺麗な髪だ。 俺は好きなのだがな」
「・・・そこまで褒められるとは思ってなくて・・
 恥ずかしさに今すぐ逃げ出したいんですけど・・・」


くしを通すのをやめ、少しだけ彼女の様子を見る。
片手で口元を覆う姿に小さく笑い、再度彼女の髪にくしを通し始めた


「・・今、笑ったでしょう?」
「・・・いや?」
「笑ってましたもん」
「フフ、いや」


はぐらかしていると不満そうな声が聞こえてきた。
これ以上粘っても答えは出ないと諦めたらしい。


「お前が髪を伸ばしている理由はあるのか?」
「んー・・明確な理由はないですね。
 強いて言うなら、短いのが似合わないからかな」


ケタケタと軽く笑うフィアナの髪を手で掬う。

乾かさないしくしも通さない。
それなのにこの質は良さは一体。

彼女が家に居た頃は家族は気にかけていたのだろうか。
それとも遺伝なのだろうか。


「・・髪触られると眠たくなるんですが、どういたしましょう」
「・・・部屋まで送るか?」
「う、ん ・・・歩くのも億劫かも」


苦笑いしながら、彼女は手の平を瞼に当てる。
うつらうつらとしているらしい。

その姿に、また小さく笑った。


「連れて行ってやってもいいが」
「・・・! や、そ、それはいいです。 多分心臓が持たない」
「はは」


彼女の髪が俺の手から滑り落ちた。





 
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