小説

F〜S間 F
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余りに無防備な彼を見た



主に小説を借りたり返したり、たまにお話したりなどと
定期的にお邪魔することが多いレオンさんの部屋。

最近になって本を借りることになって気付いたが、
彼の部屋には面白い作品が沢山ある。

好きな物しか残さないと聞いてからは、作品系統もなんとなく伺える。
まぁ・・・彼が彼なので私が普段読むものよりはダークな作品が多いけど。

夕方頃、先日お借りした本を読み終わえたので本を携えて彼の部屋を訪れた。
・・・のだが、ノックをしても返事がない。 おや?


「レオンさんー・・・?」


居ないのかと思いつつ扉を開けようとすると意外にも鍵が掛かっていない。
隙間の開いた扉に驚きつつも部屋の様子を覗き見る。

人の姿は、あった。 ベッドで足だけ下ろして寝転がったレオンさんが。

・・・人の部屋に無断で入るのはどう・・・どうなのだろうか。
悪いことしなければセーフか・・・?

数秒の葛藤の後に、そろりと彼の部屋に立ち入った。

彼の睡眠を邪魔してしまう気もしたが、彼は鋭い。
目が覚めるとしたらノックの音でだろう。

本を腕に抱えたまま、ベッドで仰向けになっている彼の顔を伺う。
瞑られた瞼は深い紫色をすっかり隠している。

・・・珍しい。 無防備だな、人のことは言えないけれど。
珍しい寝顔を見てお疲れなのかな、と柔く笑みを浮かべ、ベッドから離れた。

本棚へと近寄り在るべき場所に本を返す。

無断で借りて部屋に持って行くのは流石によろしくないだろう。
次の巻を本棚から取り出してまたベッドの方へ。

寝転がったレオンさんからは少し距離を置いて枕元の方に腰を下ろした。
表紙を開く前にもう一度、眠ったままの彼の顔を見つめる。

・・・この距離なのに、本当にお目覚めにならないな。
寝首をかく気はさらさらないけれど、彼が人であることを実感してしまう。

笑みを浮かべてから手元の本を開いた。
さて、この巻ではどう決着が付くのだろう。 楽しみを乗せてページを捲る。







隣でレオンさんが眠っていることも忘れ字に没頭し、
はっと本から目を離した時には時計の針は30分近く回っていた。

ふぅ、と小さく息を吐いて座っていたベッドへと視線を戻す。

寝返りを打っていたら読書中でも気付いたのだろうけど、
本を読む前からぴくりとも動いておらず未だに目は覚ましていないようだ。

寝返り、 ・・・打ったら打ったで可愛らしい。
成人男性ともなる彼に可愛らしいなんて言葉は怪訝な顔をされるだろうか。

端正な顔立ち、 好きな人が傍で眠っているだけで胸の高鳴りを感じる。

・・・このまま目覚めるまで待つのもいいけれど、

柔く笑みを向け、閉じた本を腕に抱えてできるだけ物音を立てず、
ゆっくりとベッドから立ち上がる。

そろそろと歩きながらソファの上に畳まれていた毛布を引っ張り出した。
本は毛布と入れ替わりでソファの上に置く。

毛布を腕に引っ掛けてまたベッドの方へと戻ってきて、
仰向けで寝転がったままの彼に広げた毛布を掛ける。

輪郭のはっきりした綺麗な寝顔、
瞼に掛かっている前髪を、彼の肌に触れないように動かす。

とく、とく、と自分の脈が速まっているのが分かる。

・・・ベッドに手を付いて、頭の高度を下げた。
傾けた顔に、自分の長い髪が腕越しにさらりと落ちる。

・・触れたら流石に起きるだろうか。
起きるかな。 起きませんように。 ・・起きないで、

一瞬、感触があったかも分からないほど浅く、短く。
彼の見えていた額に唇を当てた。

・・・・・


「・・・(何してるんだろ、)」


顔に熱が集まるのを感じながら唇を手の甲で隠す。
先程までまじまじと見つめていたはずの彼の顔が見れない。

ベッドから離れて顔を手でうちわのように仰ぎながら、
ソファの上に置いていた小説を手にして、眠ったままの彼の姿を見た。


「・・・おやすみなさい、お邪魔しました」


それだけ言い残し、本を片手に逃げるように彼の部屋から出ていった。

廊下に出て数アージュの距離を小走りで歩く。
背後で扉がガシャッと閉じた音を聞いた。

ある程度歩いた先で不意に足を止めた。
まるで息が止まっていたかのように、深く息を吐く。

背中を壁に凭れさせ、ズルズルと滑り落ちるように廊下に座り込んだ。


「・・・どうしよう、」


困ったな。

いや、さっきのがバレたら、という思いもなくはないけれど。
それ以上に、私が思うより、本気で彼のことが好きみたいだ。

初めて知った感情を、楽しむだけのつもりでいたのに。
片想いを楽しむどころの話じゃ済みそうにない。

曲げた膝を、本と共に腕で抱え込む。
膝に額を当てて深呼吸するように深く息を吐き出した。


「(結局本も持ち出してきちゃった・・・)」







扉が閉まる音と人気がなくなったことを理解してから、
不動だったはずのレーヴェが窓際に顔を向けた。

ずっと閉じられていた瞼は持ち上げられており、紫色の瞳が姿を覗かせる。


「・・・・(起きていたりして)」


彼女の訪問に気づかないまま眠っていたのは確かだった。
一体いつから居たんだ、と未だに考えているほどに。

彼女の気配に慣れたのだろうか、
自分が思うよりも彼女に気を許しているのか。

ただ、流石に触れられてしまっては、目覚めないわけがなかった。
目が覚めたその瞬間、タイミングをどう思えばいいのか。

二度寝する気は微塵もなかったが、息を吐くと同時に目を閉じた。





 
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