小説

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紺碧の塔へと向かう者達



ツァイスからルーアンへと続くカルデア隧道も
無事に潜り抜けて、エア・レッテンの滝を眺めていた。

カルデア隧道は明かりも少なくて、魔物も居るから一度も通ったことがなく、
当然エア・レッテンの滝を見るのも初めてで心が躍った。

いいな、滝。
水が上から落ちてくるだけなのに、心奪われるのは何故だろう。

想像以上に滝の勢いが強くて、
初見思わず一歩後退したことには笑われてしまったけれど。

関所での休憩も終え、ルーアンに向かう・・いや、
紺碧の塔に向かうアイナ街道で、彼は振り向きもせず口を開いた。


「グランセル滞在はどうだった」
「楽しかったです。 いろんな場所を見れましたし・・
 あ、でも女王誕生祭が見れないのだけが心残りかな」


笑いながら少し先を歩く彼に、小走りで追いつく。
レオンさんは私の様子を一瞥してから、再度歩き始めた。


「来たければ来ればいい。 案内くらいはする」
「えー、何も言わずに抜けてきたのに
 そんなひょっこり顔出せませんって。 バツ悪いです」


苦笑いしながら言うと表情は見えなかったものの、
彼は小さく「フ、」と短く笑った。

それから、彼は少しだけ顔を向けて。


「・・質問を変える。 リシャール大佐をどう思った?」


歩きながら向けられた視線に一拍。

その言葉を瞬きを繰り返す。

計画の全貌は知らない、けど彼が意識の一部を操られているのは聞いていた。
それで、彼が大佐のことを、個人的に買っていたのも知っている。

頭の中でリシャール大佐と唱えて、出てきた言葉をまとめる。


「んー、 ・・真面目な人ですけどね」
「・・そもそもお前は、大佐と話す機会はあったのか?」
「今までに2度3度はありました。 呼び止められたりとかで」


先日したばかりの大佐との会話を思い出す。

このリベールを大切に、 ・・そして愛している人だな、と。
その心は本当なんだって、思ったのに。

それなのにどうして、

紺碧の塔へと続く道と、ルーアン市へと続く道とで
別れた街道がすぐ目の前に。

彼は当然、紺碧の塔へと続く道に入っていった。


「彼がああなったのは、教授がちょっかい掛けた影響なのでしょう?」
「あぁ」
「・・やっぱり勿体無いですよね、 ・・良い人なのに。
 『正義でありながら悪』みたいな、そんな雰囲気でした」
「・・・正義でありながら悪、か」


声小さく復唱した彼へと顔を上げる。
何を考えてらっしゃるかは正直よく分からない。

・・でもきっとレオンさんも、似たような考えはしたと思う、
だから私に聞いているんだと思うし、返答にそれなりに納得もしてる。

少しだけ考えて、口を開く。


「レオンさんは逆な感じがしますよね」
「逆?」
「悪でありながら正義、っていう」

「・・・本当にそう思うか?」
「思ってるから言ってます。 かなり人道的な方だなって」
「・・・・どうだかな」


数拍置かれた答え。 完全な否定でもない辺りに少しだけ笑った。

ふと、突然ガサリ、という音と共に、
視界の端に捉えていた真横の草むらが揺れる。

両腕を構えてたじって、一歩後ろに体を引く。

私の右側を歩いていた彼は、右手で私の右手首を力強く引いては、
いつもの剣を左手に、飛び出してきた魔獣に振り下ろした。

・・・・唖然する暇もない、もう瞬殺、

呻き声と共に倒れ伏し、消えていく魔獣に言葉が出なかった。
いや、魔獣そのものに声が出なかったわけじゃない。

突然現れた魔物にも、秒と掛からず斬り伏せた彼の腕にも、だ。


「怪我無いか」
「は、はい。 おかげさまで、」
「ならいい」


私の右手首を離して、小さく息を吐いた彼は再度歩き出した。
掴まれていた右手首を一目見て、後を追いかける。


「勘付くのはいいが、戦闘能力がないとどうしようもないな」
「・・・私が戦えるようになりたいと言ったら教えてくれますか?」
「・・お前に?」
「私に」


立ち止まったレオンさんと目線が合い、私も歩く足を止めた。

・・勿論、冗談を言ってるわけではない、
意外と言わんばかりに向けられた目線は逸らさずに見つめ返す。

近いうちに、 付け焼刃でも、たった少しでも
戦えるようになりたいと願っている。

彼はまた数拍、私の目を一しきり見てから、
街道にと目線を戻し、歩き出した。


「・・・生憎、剣以外は専門外だが。 理由次第では」
「えぇー、理由の提示付きですか」


苦笑いしながら、彼の後ろを歩く。
レオンさんは振り返りもせず、また言葉を並べた。


「フィアナは戦えずとも構わないと考える人間だと思っていた。
 お前自身もつい先日まではこの考えではなかったのか?」
「・・合ってます」


ハッキリそう言ったわけではないのに、
よく分かってらっしゃるなぁ、なんて。

いつだったか、「お前はそういう人間だ」と言われた時は
流石に疑問符浮かべたけど、その類だろうか。

いや、でも今ならその言葉の意味が少しだけ分かる、かもしれない。
彼にだってそういう面がある。 「そういう人だ」っていう。


「どういう心境の変化は知らんが、そのお前が言い出すほどだ。
 それなりに何かしらの理由がある」
「・・・・」
「・・お前がその考えに至った理由が聞きたい。
 と言ったところだが。 流石に提示は嫌か?」


向けられた優しげな表情とその若干緩められた口角に、一瞬思考が止まる。
・・と、時折こういう表情されると心臓に悪い。

しばらく道や森に意味もなく目線を泳がせながら悩み、
顔を上げて出てきた一言は、


「・・・前向きに検討しておきます」


その言葉と共に微笑を1つ。

小さく笑った気配のする彼と、ほぼ同時に視界に移る青い塔。
思わず足を止めて、見上げて 口が小さく開いた。

前を歩いてたレオンさんは立ち止まって、
私の様子を見ていた、ように見えた。


「四輪の塔を見るのは初めてか?」
「はい・・・四輪の塔って、こんな感じなんですね」
「・・登る前に休憩を挟むか。 流石に疲れただろう」


歩き出そうとした足の動きを止めて、
紺碧の塔からレオンさんにと目線を変えた。


「・・・なんで分かったんですか」
「歩く速度が落ちているが。 気が付かなかったか?」
「・・・・」


その言葉に少しだけ足元を見る。

・・先程からずっと筋肉が突っ張れたような感覚がしていた。
出発時直後はともかく、後になるほど小走りで追いかけることが多かった。

塔の前の階段近くの壁に凭れて腕を組んだレオンさんを見て、
歩いて、塔の中へと続く階段に腰を下ろした。


「・・・よく見てらっしゃいますよね」
「お前は読めないが分かりやすいからな」
「私、読めないほど突拍子なことしてます?」
「フ、いや? 何もたいした意味はない。 気にするな」



(読めないが分かりやすいかぁ・・・)
(・・・何故それを拾う)
(や、どういう意味だろうと思って。
 選択肢や前提条件がある状況だと『分かる』・・なのかな、)

(・・お前は鋭い奴だと思っているし、それは今も変わらないが)
(? はい)
(焦点が自分だけに絞られた時は意外と疎いとは思う)
(え?)





 
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