小説

FC F
5ページ/17ページ




教授って方はどんな人?



現在時刻、午後1時。
昼ご飯も終えて各々ゆっくり一息付いていた頃。

廊下をうろついていたら、ちょうど部屋に戻ろうとする彼の姿が見えて。

ついでにずっと悩んでたことに質問してみようと呼び止めれば、
彼は一瞬止まって自分の部屋へと指を向けた。

・・・「立ち話もなんだから」ってことでしょうか。

開きっぱなしにされたままの扉から、お邪魔します、と一言言って部屋に。

彼の部屋に入るのは2度目だ。
少しだけ周りを見渡して、最初に寝かせてもらっていたソファに腰を下ろす。


「で、質問というのは?」


彼は一息ついたかのように大きく息を吐き、私の隣にと腰を下ろす。
思ったよりソファが沈んだことに少し驚いた。


「何度か話に出てきた・・教授って人のことを訊きたくて」


多分これは訊いてもいい範囲・・・と、思ったはずなのに。
今、彼の様子を見れば私を見つめたまま、眉を寄せて動きが止めている。

予想以上に怪訝そうな表情をされ、
「あまり訊かれたくなかった項目」だったと察する。


「す、すみません、それほどまずい質問でしたか・・・?」
「いや、別に悪いことはないが・・・」


さっきよりも深く息を吐き出した彼は相変わらず眉が寄っている。

・・どうしたものだろう。
彼の様子を伺いながら、頬を小さく掻いた。

聞かれたくはなかったらしいが、答えたくない内容・・
というわけでもないらしく、彼はゆっくりと口を開く。


「少々、というか大分性格に難のある人でな」
「へぇ」
「正直な話、会わせたくない」


怪訝そうな顔のレオンさんに苦笑い。

元が犯罪組織なだけに、歪んでいる人が居るであろうことも
全く予想していなかったわけではない、けれど。

彼にそこまで言わせるって、もしかして相当?


「でもどこかで顔合わせるでしょう?」
「このままだとな」
「・・具体的にどういう人か、伺ってもいいですか?」


レオンさんは何か思うところがあるように、少しだけ顔を上げた。
彼の言葉が紡がれるのを待つ、


「そうだな・・・相手方の選択肢を奪っていくし、
 卑劣な手も平気で使う、手段を選ばない人だ」
「・・・会ったことのない人をこう言うのも、少々なんですが・・」
「ん」
「正直厄介、ですね」


私が小さく息を吐き出したのとほぼ同時に、
「教授とだけは相容れんな」と。 彼は大きく溜め息をついた。

影から根回しするタイプだろうか。

・・・・この数日の話を聞いて、今の反応を見る限り、
貴方はそういう曲がったことは嫌いらしい。

優しいですよね、と心の中に留めつつ小さく笑う。


「彼は今どこに?」
「リベールを歩き回ってる頃だろう。
 常時貼り付けたような善人の笑みを浮かべてな」


言い終えるとレオンさんは一拍置き、私と目を合わせた。
満足か、と。 もう言うことはない、とでも言いたげに。

彼の様子に、息を吐くように笑いを零す。


「レオンさん、結構ストレートな上に辛辣ですね」
「・・・人としては嫌いだな。
 痛む心もないからか、本人もさほど気にしていないようだが」


・・・言いたい放題じゃないですか。
心の中で抑えたものの、彼が人をここまで悪く言うのは正直驚きだ。

本心を隠す人ではない、意見は言う人のようだし。

ただあまり延々とやる話題ではなさそうか。
そこまで考えて、ぴんと閃いた。

「そうだ」と呟き、隣に座る彼の顔を伺うように笑みを浮かべる。


「ストレートついでに訊いていいですか? 私のことはどういう判定です?」


冗談めかして笑えば、レオンさんは考えるようにじっと私を見つめた。
あ、これは結構真面目に答えてくれる雰囲気。


「・・・今のところは、普通に普通の奴だと思ってる」
「普通に普通」
「初日にも言ったが到底悪人には見えん。
 が、丸っきり信用しているわけでもない」
「まぁ、妥当でしょうね?」


ほぼ押しかけなのに、普通の奴として見られているだけ充分すぎる。
信用はされてなくても仕方ない、寧ろされていた方が私が驚く。


「ついでにあまり手元には置きたくないな」
「それは・・教授の件? 組織の件?」
「両方。 お前の身を案じても、組織を案じても、あまり関わらせたくない」


レオンさんの言葉に、数秒の思案の時。
言葉の意味を理解した瞬間、俯きめに微笑んだ。


「・・レオンさんって普通に優しいですよね」


そう言って顔を上げて、彼の様子を伺ったら、
教授の話の時よりはマシだったものの、これまた怪訝そうな顔をしていて。

思わず笑ってしまった。


「私そんな変なこと言いました?」
「・・・この組織に居る俺に、それを?」
「ふふ、 いや、まぁそう言われては身も蓋もないんですけど」


笑いながら口元を押さえる。
レオンさんは怪訝そうな表情のまま、私を見ていた。

何のために「善人」という言葉ではなく、
「優しい」という言葉を出したと思っているのだろう。


「・・・一応、普通に人としても見てるつもりですよ?
 少なくとも私からすれば、根っからの悪には感じません」


本当に悪であれば、私は今頃利用されるなりなんなりしてるはず。

自らの左手を広げ、見つめる。
この身には何も起きてないし、ここに来てからの記憶も・・ある。

広げた手の平を握り、顔を上げて少しだけ笑った。


「見ず知らずの私にも気に掛けてくれますし、
 その優しさは嘘じゃないと、思ってます」
「・・・・・」


それはきっと私の気のせいや自惚れなんかではなく、
彼の根から来るものだろうと、思うのだ。

小さく一息付きながら、返答のないレオンさんを見やる。
何か言いたげな口元と、形容し辛い瞳が私に向けられている。

その、視線が。 瞳の奥までばっちり合ってしまって。

ドクン、と鳴った心臓と現状に口が半開きに。
急速に熱を篭もらせた頬に、反射的に口元を覆った。

私の突然の動作に、彼は疑問符を浮かべんばかりの表情で。

それどころではない私は思わず、彼に背を向けて肘置きに倒れこんだ。
後ろから心配そうに私の名を呼ぶレオンさんの声、


「? フィアナ」
「す、すみません、 ・・予想以上に、」


予想以上に、に続く言葉は思い浮かばなかった。
寝転がりながら少しだけ体を丸める。


「恋は病とか言いますけど、 ・・ほんとこれ病気ですね、
 なんで私、一目惚れしちゃったんだろう」
「・・・難儀な奴だな」


苦笑いのような、声が聞こえる。

・・・彼と目が合った時、 逸らせなくなりそうで、
堪えた深い瞳に吸い込まれそうになったんだ。

・・・ 少し落ち着きはしたものの、彼に背を向けたまま。


「・・・あの、 私居座ってますけど」
「? あぁ」
「・・拾ったの、後悔、してます?」


ちゃんと聞いておきたい反面、
聞きたくないという思いも混ざったか、微かに声が震える。

背を向けているこの状況では、彼の様子は分からない。
僅かな沈黙の時でさえ苦しいとは、

彼が少しだけ動いた気配がした後、「いや?」と短く否定の声を耳にした。


「寧ろ話し相手ができてよかったかもな。
 流石にこの建物を俺1人で使うには広すぎる」


付け加えるように発せられた言葉は彼の本心で、
それ以上は何も含まれてないものだけど、どこか嬉しい、気もする。


「・・・いやもうほんとこれ病気ですって、 帰りたい」
「帰ればいいだろう」
「や、 でも、レオンさん居ますし」
「・・難儀な奴だな」

「・・・邪魔ですか?」
「いや? 見てて面白いが」
「私真剣なのに」





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ