小説

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少尉と疑われ気味の少女



司書の方が居ないのをいいことに
資料室へツカツカと入ってくレオンさん。

どうやら目的の資料がどこにあるか把握してるらしく、
迷わず真っ先に階段を上って行く。

その姿に苦笑いしながら、貸し出し返却ボードを手に取った。

さて、ペンはどこだろう。


「そういえばフィアナ」
「はい?」
「つい先ほど溜め息をついてたな。 どうした」
「・・・見られてました?」


苦笑いしながら、引き出しの中に入ってたペンを取り出す。

貸し出し/返却の欄に、返却と書き込む。
と、私の名前。 日時。


「・・・ふふ、どうも好かれてないようで」
「カノーネ大尉か」
「ある程度は仕方ないと割り切ってるつもりなんですけど、
 あれだけ分かりやすくガン飛ばされると・・・」


ペンを滑らせ、記入すべき場所を全て書き終えた私は本棚の前に立ち、
借りた資料を在るべき場所に返した。

適当に取ったものだったけど面白かった。
他に面白そうな資料あるかしら。

階段上で聞こえたレオンさんの溜め息。


「全く・・あの人にも困ったものだな」
「いいんですか? そんなこと言っちゃって」
「聞かれやしないさ」
「・・そういう問題では」


ない気が、と繋げようとすれば「いいんだ」と一言遮られてしまった。
・・・いいんですか。

本棚に納められている本を1つずつ、タイトルを読んでいく。


「・・・ まぁ、なんていうか」
「ふむ」
「大佐がやろうとしてることってクーデターでしょう?」
「そうだな」

「それを聞きつけた遊撃士協会か、
 どっかの手先だと思われてるそうですね、私」
「・・・随分と他人事だな」
「少なくとも手先ではないんで、他人事ですね」


あ、 と一言、目を惹いたタイトルの本を手に取る。
目次のページをさらっと読み流す。


「フフ、こんな人の良い少女がスパイか。 確かに意外性はあるな」
「何を暢気な・・・」


貴方にとっても警戒対象でしょうに。
・・その言葉は胸に留めておいた。

言わなくてもきっと彼は私を警戒してる。
会った当初ほどではないけど、まだ何かやっても可笑しくない。

・・・ちょっとだけ寂しいとか、


「けど私、魔獣1匹倒せないんですけど、
 そんな人間がスパイ要員になれると思います?」
「戦えずとも口を割るのは簡単だろう?」
「あー、なるほど、諜報員」


確かに可能性はあるかもしれない。
私からすればそれもこれもないけれど。

でも交渉術とか・・戦えないというのが作用して、
ふと疑問に思ったことを訊いたら案外返事が来たりとか・・・
うん、あるかもしれない。 ないけど。

レオンさんは目的の物が見つかったのか、
腕に何冊かの資料を持って階段から下りてきた。


「まぁお前の口の固さは俺が一番評価しているが」
「・・・ふふ、光栄です。 ・・・が、」
「が?」
「全く何も言わないという証拠も根拠もない相手に、
 そんなこと言っちゃうのもいかがなものかなぁって」


貴方にも上が居るでしょう。

手に取った本を流し読みし、貸し出しボードにペンを走らせる。
司書さんに直接言えたらよかったけど、留守のようだし。


「フ、 そう言う奴は大抵何も言わん」
「・・・・そうですね」


確かに言いませんけど。

ただ信用されてるのか、人間の心理に沿っているだけなのか
その辺の真意はいまいち分からなかった。


「ま、会って10日経たんお前を信じさせる方が難しい話だな」
「・・・とか言って、少尉ともそんな時間経ってる気しませんけど」


貸し出しボードに書き込みを終え、ペンをテーブルの上に置き、
入口の前で待っていたらしい彼に歩み寄った。

レオンさんは私を見下ろして、何か言いたげに少し口を開く。


「・・俺は、 お前がどういう人間なのかは見切ったつもりだ。
 たまに突拍子のないこともするが、信用はしている」


・・・・・ん?

そう言い終えたレオンさんは踵を返して、
さっさと廊下を歩き出した。

慌てて小走りで追いかける。


「・・ところでその手に持ってるの、」
「あぁ、これか」
「貸し出しボードに書かなくていいんですか?
 司書さん困ってましたよ。 勝手に本がなくなるって」
「いいんだ」


・・・流石にそれはよくないのでは?

そんなやり取りに苦笑いしながら、長い廊下を歩いていく。
通りすがったメイドさんに小さく会釈した。

信用はされてる。
・・・少し予想外なお言葉が聞けたわけですが。


「フィアナ」
「はい?」
「・・・・いや、なんでもない」
「なんですか、それ」


クツクツと笑いながら私の2歩先を歩いてく、
レオンさんに疑問符浮かびまくり。

一体何が面白かったのか。


「・・ある程度の悩みは杞憂に終わる。 余計な心配はするな」
「・・・、ありがとうございます」
「『これほどか』と思うほどに、お前は溜め息が似合わない」
「・・・そんなに?」





 
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