小説

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武道大会観客席での遭遇



予定していたよりも少し早い時間にグランセル城を出る。

門の前に居た特務兵の人に武道大会を見に行くのかと訊かれ、
笑いながら「最終日ですし、少尉も出ますから」と答えた。

「だろうと思いました」と何も疑問もなく返され、
あぁ、しっかり定着してしまったな、なんて。

定着に関しては一向に構わないし、寧ろ隠してないから当然なのだけど、
片想いが一方的に知れていくのは少々むず痒いものだと感じる。

それから、 いってらっしゃいませ、と
特務兵の人に、普通に見送られた私は、 ・・・私の心境は。

特務兵の人が悪い人だけで組まれているようには見えなかった。
何故リシャール大佐に手を貸すのかとどうしても疑問が消えなかった。

・・・嗚呼、霧がかっている。
答えはまだ見えない。


武道大会決勝戦、最終日。

決勝は彼率いる情報部特務兵チームと遊撃士で構成されたチーム。

ジェニス王立学園の時に見かけた、
茶髪のツインテールの少女と黒髪の少年は遊撃士だったらしい。

一目見て「あ、あの子達」とピンと来た。

となると噂の遊撃士は彼女達だろうか。 そんな気がした。
・・・確信はないけれど、こういう勘は当たるんだと自分は知っている。

グランアリーナの中に入り、観客席を見渡すと思ったより人が入っていた。
早めに出てきたつもりだったが、流石最終日と言わざるを得ない。

空いてる席を探して観客席をうろついていると
彼から、レオンさんから話を聞いていた人物に似た人が目に留まった。

・・・多分、きっとそうだ。
しかも彼の席の隣は空いてる。

席が埋まらないうちに、と小走りで
青髪のいかにも学者といった風の男性の席の隣まで歩く。


「すみません、お隣よいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「ありがとうございます」


礼を一言述べて、無事に席に座れたことにほっと一息をつく。
観客席の様子をぐるりと見渡す。

そして、隣に座る学者さんをちらっと一目見た。

青い髪のオールバックに丸眼鏡。
・・レオンさん曰く、貼り付けたような善人の笑み。

小さく深呼吸をして、彼の方へと顔をあげた。


「あの、人違いだったら申し訳ないのですが」
「はい?」
「もしやとは思いますが、貴方がアルバ教授でしょうか・・?」
「あぁ、そうですが。 私をご存知ですか?」


予想した人物が合っていたみたいで少しだけ安堵する。
よかった、人違いじゃなくて。

レオンさんはあまり彼のことを好いてないようだが一体どんな人だろうか。

私の話は彼にも通っていたはずだ。
・・・だから、深く言わなくてもいいだろう。


「お話伺っていませんか? レオンさん、とか」
「・・・おや。 もしかして君がフィアナ君かな?」
「はい。 お初にお目にかかります、フィアナ・エグリシアと申します」
「フフ、ご丁寧にどうもありがとう」


あ、少し雰囲気が変わった。
彼の纏う空気が、先程までとは違う質のものになった。

座ったままのお辞儀に、顔を上げれば未だ善人そうな表情。
・・・口だけ雰囲気違うからとてつもない違和感。


「うちの剣帝から聞いてはいるだろうが、
 私がゲオルグ・ワイスマンだ。 どうかよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします。 教授、こちらに来ていたのですね」
「えぇ、つい先日都合がついてね」


随分と歩き回ったものだよ、と笑う教授に小さく笑い返した。
そりゃリベール一周したら相当な距離でしょう。

開始を今か今かとそわそわしながら待つ観客達、
その喧騒の隙間でなんて静かな会話を。

私達のどこか雰囲気の怪しい会話を気に留める人など誰も居ない。


「君はレーヴェに連れてきてもらったのかい?」
「連れて来てもらった・・と言うよりは連れられたというか」
「フフ、とはいえ置いてけぼり食らわなくてよかったろう?」
「ふふ、全くですね。 あ、王都は初めてなので全力で楽しんでます」


少尉の権力でお城にお邪魔することになってしまったけれど。

苦笑いしながら付け足せば、
お隣で「そうかい」と小さく笑ったのが聞こえた。

その後視線を感じるから振り向いてみれば、じっとこちらを見ている教授が。


「真を知ってまで居付こうとするからどんな娘かと思えば。
 ・・・私の予想は大きく外れたようだ」
「あら。 どんなイメージを持たれていたのでしょう?」


笑いながら問う。
予想と外れたと言うならば、どう思われてたのかは気になるものだ。

教授は笑いながら、戦士達の戦う場を見つめていた。

試合が始まるのはもう少し先のようだ。


「家族と上手く行かずに家そのものを嫌悪している、
 どっかに連れ去られたい人間不信予備軍な女の子・・かな?」
「随分具体的にイメージしてらっしゃいましたね」
「経緯を聞いたら少々想像が膨らんでしまったよ」


成り行きが成り行きだっただけに否定しきれない。

風邪を引いたまま外出して倒れて介抱された矢先の押しかけ居候。
・・・うーん、確かにそう思われても不思議じゃない。 寧ろ自然だ。


「ふふ、 でも残念ながら家族との仲は
 いたって良好ですし人間不信でもないです」
「どうやらそのようだ」


はっはっは、と高く笑う教授に笑い返した。

『正直な話、あまり会わせたくない』
そう言って苦笑いしていた彼の心配は何処に。

思ったよりは『人』、のように感じたけれど。
嗚呼、でも裏表はありそうだし今のが本性とも限らない。

矢先観客達が一斉にざわついた。

顔を上げてみればリシャール大佐とカノーネ大尉、
そして執事さんを引き連れ、デュナン公爵の姿がお見えになった。


「・・あ、試合始まりますね」
「そうだね。 ・・・時に君の狙いは報告通りでいいのかな?」
「報告の内容知りませんが。 彼に伝えたままですよ」


彼のことだから虚偽申告はされていないだろう。

笑いながらそう答えれば教授は少しだけ私の様子を伺った後、
相槌のように頷いてから口元に笑みを浮かべた。


「一先ずは信じることにしよう。
 近いうちに君の話を聞かせてもらいたいのだがいいかな?」
「構いません。 お手柔らかにお願いしますね?」





(君は戦える人かな?)
(あはは、それが全く。 なんでだろう、
 自分が武器を手に戦うイメージが湧かない、というか)

(そうだね・・確かに君の容姿で、君と会話をした後に、
 魔物バッサバッサ薙ぎ倒す姿を目撃したら流石の私も二度見すると思うよ)
(私以外の誰かが乗り移ってそうですね、それ)





 
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