小説

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王都から去る者、歩く者



城内に居る親衛隊の人達に軽く挨拶をして、城を正門から出て行った。

どちら様? と思われたかもしれないが、緊急時であることも相まってか、
堂々と挨拶する私を慌てて引き止められることは意外となかった。

無事に脱出できたことに安堵し、グランセルの大通りを歩く。
大方の特務兵さんは城に戻ったらしく、街に兵の姿も少なかった。

今起きている出来事が一通り落ち着いた頃、
不意に情報部でもなんでもない私の存在が判明するだろう。

ロランス少尉が連れていた、一般人らしき女が1人。

大通りを歩いてきた私を、王都正門前の噴水が出迎える。
辺りを見渡して、周囲に人気がないことを確認。

・・・ここまで来たら、大丈夫かな。
合流する際には尾行や人目がないように、と注意されていた。

噴水を通り過ぎ門を越え、小走りで広い通路に出る。

周囲の気配を警戒しながら、少し道を逸れた場所に設置された、
ベンチの足を組んで座る彼の姿を見つけた。


「っは、お待たせしました・・・!」


彼は王都内で見ていた情報部の姿ではなく、
少し前までよく見ていた象牙色のコートをまとった姿だ。

僅かに息を切らせて駆け寄る私に、顔を上げた彼はすぐに席を立ち数歩寄る。


「思ったより早かったな」
「ふふ、急ぎました」


呼吸を整える私に「行くぞ」と一言声を掛け、キルシェ通りへと足を向けた。
彼の後を追い、人気のない通りを歩き始める。


「兵士の目は厳しくなかったか?」
「『こんな時にお出掛けですか?
 あ、でも非常時だし外の方が安全かもしれませんね』と」
「フフ、非戦闘員で良かったな」
「全くですね」


私が戦闘の腕が立つ人間であったなら、もっと警戒を強められていただろう。
質問に相槌と「少し避難しています」と笑いかければ、普通に見送られた。

この非常時にロランス少尉が行方を晦ましたことを、彼らは知らない。
中核が消息を断っていると知っていたら、私も引き止められていたはずだ。

歩く速度の早いレオンさんに小走りで距離を詰めれば、
彼は肩越しに一瞬振り向いた。

歩くペースが若干緩んだように感じ、小さな気遣いに1人微笑む。


「この後はどうするご予定ですか?」
「四輪の塔を見に行くつもりだが」
「・・・今からですか?」

「お前は適当な場所で待機しても構わないが・・・」
「でも関所は避けたいと仰ってましたし」


かといい魔獣の出没ゾーンに放り出されるのも、非戦闘員なので普通に困る。
できれば彼に着いて行く方が一番不都合が少ないけど、問題は私の体力だ。

遊撃士であるとか、移動をメインとした職種ならまだしも、
一般人ゆえに街から街への移動も大変だった。

四輪の塔は興味あるんですけど・・・

妙案が浮かばないかと頬を掻き思案に暮れた頃、
人の気配のない街道に不意にがさりと物音が響く。

突如、前方に現れた魔獣に私が一歩後ずさる。
息を呑む暇もなく、彼が前に出て剣を抜き、一瞬で魔獣を蹴散らす。

なんてことはないように、ピッと剣を振り元の場所に戻す。


「フフ、ならば軽い散歩とでも思って共にどうだ」
「レオンさんのとんでも体力と一緒にされるのはちょっと困ります」


周囲を見渡して、恐らく後続が居ないことを確認してから歩き出す彼。
また小走りでレオンさんの一歩後ろを歩く。

彼の象牙色のコートが風で揺らいでいたのが、妙に印象に残った。


「・・・来ないのか?」
「・・興味はあるんですけど、足手まといになりそう」

「フ、律儀な奴だな」
「褒めてるんですか?」
「褒めてる」


クツクツと笑われているのが、なんだかどうも納得行かなくて。
む、と少し頬を膨らませば、振り返りもしてないのに小さく笑われた。


「紅蓮の塔と紺碧の塔を巡る予定だったが、変える」
「え」
「紺碧の塔のみに絞る。 ・・・寄り道程度だろう?」


レオンさんは上半身だけ振り返りながら提案を出す。

妥協案とでも言いたげだが、ここから紺碧の塔って、
普通にツァイス挟んでルーアンまで歩く気では。

けど紅蓮の塔まで行くつもりで正規の道を通るのなら、
ツァイスからほぼUターンでリッター街道の半分を歩く。

妥協案、妥協案ではあるか・・・

いろいろ考えた結果、確かにそれが一番良い気がして、
苦笑いしながら顔を上げた。


「すみません、それで付き合います」
「決まりだな」
「けれど、どうしてまた四輪の塔に?」
「・・・見れば分かる」





 
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