小説

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女王救出を見守る傍観者



「はっ・・・はぁ・・・!」


日射しの当たる庭園に出たところで、膝に両手を当てて息を整える。

彼が予測していた事態が起きた。
エルベ離宮の人質解放。

そして彼の予測通りならば、この後は女王宮に囚われている女王の救出。

珍しく全力で城の中を走ったものだから、
すっかり息が上がってしまっていた。 疲れた。 動悸が激しい。

流石に資料室から庭園までは距離があった。
なんせ城の端から端を走ったようなものだ。

胸に手を当てて大きく深呼吸した後、顔を上げて女王宮までの道を走る。

赤く伸びたカーペットが見えるところまで庭園を走ると、
中央に誰かが倒れているのを視界に捉えた。

黒いベレー帽にピンクのショートカット、黒い軍服。
思い当たる人物が1人。


「カノーネ大尉!?」
「・・・う・・・・」


慌てて駆け寄り、近づいて彼女の様子を伺った。

呻き声のおかげで彼女の生死判別は簡単だった。
どうやら気を失ってるだけらしい。

確かカノーネさんは兵の指揮をしてたはずだった。
・・・となると女王宮には・・・

下唇を噛んで申し訳ないと思いつつ、
カノーネさんの横の通り過ぎ、女王宮へと向かった。

女王宮に入り早々階段を駆け上る。
ここに来るのは3度目だ。 道は知っている。

いつもと違ったのは入口からすぐの場所に、
情報部の人が3人倒れていたことくらいか。

・・・私は彼の考えを知らない。

彼らの考えるシナリオは知らなくても、できることなら。
経過をこの目で見届けるべきだと思ったのかもしれない。

それが何の意味を伴わなかったとしても。

・・・女王の部屋の前に辿り着き、扉にそっと耳を寄せた。

ほんの微かに戦闘らしき金属音がするものの、音が遠い。
流石に室内ではなく、バルコニーに出ているみたいだ。


「(女王様、失礼いたします)」


心の中で断りを入れてから、ゆっくりと扉を押す。

無人の女王の部屋、真っ先に見えたのは全開となったバルコニーへの扉。
どうやらこの扉が開いてるおかげで、部屋の外にも音が聞こえたらしい。

室内に入り、壁に肩をついてそっとバルコニーの様子を伺う。

そこにはメットを取ったレオンさんとアリシア女王。
後姿を見せる遊撃士達が、彼と戦闘を繰り広げていた。

・・戦うのに夢中で私には気付いていない。

あ、ツインテールの少女には見覚えがある。
学園祭や闘技大会で見かけた子だ。 ・・そうか、遊撃士だった。

髪短い人はクローディア殿下・・・らしい?
あれ、離宮で会った時は髪長かったような。

後もう1人、見覚えの無い長い銀髪の女性を含む彼女達3人とレオンさん。

殿下達は奮闘しているものの、戦えないなりに、
やはりレオンさんの方が格上のように見えて。

膝をついた彼女達と、彼が何かしら会話をしている。
あぁ、流石にそこまでは聞き取れない。

・・・レオンさんは女王の元まで後退してから、
女王の部屋に居た私をふと見つめて。

目が合った私に、いつもの読めない笑みを浮かべた。


「さてと、そろそろ時間だ。 お望み通り女王は返してやろう」
「へ・・・・!?」


・・・完全に彼が予想していたように話が進んでいく。
よく練られたシナリオだな、なんて少しだけ目を伏せた。


「・・・それでは、さらばだ」


そう言ってレオンさんは彼女達に背を向け、
手すりから海へと躊躇なく飛び降りた。

・・・・人間業じゃない。 無事なのか心配になってくる。


「(全くとんでもないんですから、)」


思わず口から空笑いが出そうになる口元を指先で押さえ、
踵を返し、女王の部屋を出た。

ツインテールの・・あの遊撃士さんとは少し縁があるのかもしれない。
女神のお導きでしょうか・・・・なんてね。

・・・今空中庭園を通ったら城門前で戦闘していただろう
遊撃士の人とすれ違う可能性が高いか・・・?

・・・鉢合わせるのは気が引けるな、
彼らが通り過ぎるまで少しだけ殿下の部屋にお邪魔させてもらおうか。

階段を下りていく足は意外と軽快だった。



「・・・あれ・・?」
「どうしたの? エステル」
「今、女王の部屋に誰か居たような・・?」

「・・・誰も居ないわね。 気のせいなんじゃない?」
「あはは、そうかも」


クローディア殿下の部屋で。

フィリップさんが気絶している公爵閣下の介抱をしていた場面に
偶然出くわしたのは、フィリップさんと私しか知らない話。





 
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