小説

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調べ物と日課誘う談話室



資料室からお借りしてきた本を片手に、
空中庭園の手前にある談話室を訪れた。

すっかり顔馴染みになった談話室のスタッフさんと会釈しあい、
ココアを注文するとカウンターからすぐ見えるテーブル席に腰を下ろした。

借りた本は古代遺物、いわゆるアーティファクトの類だ。

女神が授けた至宝、古代ゼムリア文明。
それらの単語を聞いてうずっとした辺り、私は歴史好きなのかもしれない。

もっと詳しく知りたくてグランセル城の資料室や、
城下町にある歴史博物館にも何度か足を運んでみた。

流石に何度か通うと各所の受付さんに顔を覚えられる。
「見ない人だね」という言葉も何度か聞いた。

目次と前置きを流し読みしている間に、
スタッフさんがココアをテーブルの端に置く。

カップに口を付け、数ページぱらぱらと捲る。
・・・ふと、視界と本に陰りができる。


「フィアナ」
「あ、」


名を呼ばれて、見上げた先には赤い仮面を被った・・・
情報部モードのレオンさんがテーブルのすぐ傍に立っていた。

その名を思わず口に出してしまいそうになるのを抑えて言葉を飲み込む。


「・・・少尉、」
「最近よく調べているな」
「興味持っちゃって。 もしかして監視でも言い付けられました?」


冗談めかして笑えば、彼は口元しか見えないながらも薄く笑い、
「人聞きが悪い」と口にしながら、私の向かいの席に座った。

彼はスタッフに視線を投げ、コーヒーを注文する。


「第一お前を連れて来たのは俺だ。 仮にフィアナの監視命令が出たとして、
 連れて来た本人に監視を任せたりはしないだろう」
「それもそうか、そうですよね」

「・・・内容は古代遺物か?」
「はい。 この歳になって初めて気付いたんですけど、私は歴史好きかも」
「フフ、勉強熱心で良いことだ」
「読み物は好きなので」


笑いながら本の内容に視線を落とし、記載された文字を追う。

そういえば教授も四輪の塔がなんたら、と話していたような。
クーデターの案件だっけ、その次だっけ?


「熱心なのは良いことだが。
 やりすぎると大佐や大尉に目を付けられるのではないか?」
「かもしれませんねぇ・・・」
「・・・・おい」


あ、今レオンさんが眉を寄せた、気がする。
仮面を被っているので、これはあくまで想像に過ぎないけれど。

呆れ混じりに咎める一言にくすくすと笑いを零した。


「ふふ、大丈夫ですよ。 少尉が居るので」
「・・・気楽な奴だな」


雑談している間に、彼が注文したコーヒーもテーブルに置かれる。
僅かに会釈をした彼が、カップに口を付ける様子を見て苦笑い。


「こんな時間なのにコーヒーなんて飲んでいいんですか?」
「残念ながらまだ仕事が残っている」
「・・・ちゃんとお休みくださいな」
「休んでいるからここに居るんだろう」


確かに仕事中に会うわけにはいかないし、それもそうかもしれないけれど。
私の様子を見に来ることが、彼の休息に当たるかはまた別問題で。

不服そうな表情が表れていたのか、彼はカップを下ろしてフンと笑った。


「それに、今からその量を読もうとしているお前に言われたくはない」
「・・・・・」


私の前には辞書を連想させるほどの分厚い本が置いてある。

い、いや、流石に今からこれを全部読もうとしてるわけでは・・・
熱中したら夜明けまで読んでしまうかもしれないけど・・・

葛藤の無言を肯定と受け取ったらしい彼は、呆れながら息を吐き出した。


「キリがいいところまで読んだら部屋に戻れ」
「・・ふふ、そうします。 あ、と、そうだ少尉?」
「なんだ」
「10分くらい時間空いていませんか? 空中庭園に行こうかなって、」


最近日課になりつつある夜の空中庭園の散策。
今は見学不可の光景を、ほぼ1人で独占させてもらっている。

その散策に、何度か彼を付き合わせている。

手の平を合わせて笑えば、彼は先程よりも長い溜息を吐き出す。
そして一瞬、談話室に設置された時計に顔を向けた。


「・・・空いてない?」
「いや、空いてる。 ・・・今から10分だが」
「!! ちょ、ちょっと待ってください!」


思いがけず始まったカウントダウンに、
慌てて自分が読んだページにしおりを挟んで本を閉じる。

レオンさんは私と話している時に飲んでいたからか、
カップの中身はとっくに空だった。

テーブルに置いていたココアを飲み干し、がたりと椅子から立ち上がる。


「ごちそうさまでした! 少尉、早く!」
「・・9分も10分も変わらないだろう」
「これだから男性は」


本を片手に談話室を出て、すぐ右側にある空中庭園への階段を上る。

上りきって私を迎えたのは、いつも通りの綺麗な星空。
私の後ろから数歩遅れて歩いてきたレオンさんが、また小さく息を吐く。


「空が綺麗なのは分かるが、毎日毎日よくも飽きないな」
「ふふ、飽きませんよー。 レオンさんも居るので」
「・・・お前はお前で本当に揺らがないな」
「貴方にお褒めいただいた長所です」


小さく笑いながら、定位置となり始めたいつもの場所へ。
軽快に足を伸ばすその先は、城下町の夜景もよく見えるのだ。





 
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