小説

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数日ぶりの外界と学園祭



「・・・学園祭ですか? へぇ」


ふと明日の予定を聞けば、意外な返答があった。
思わず目を丸めて、料理していた自らの作業の手を止める。

彼は怪訝そうに眉を寄せて「なんだ?」と一言。
言いたいことがあるなら言えとばかりに私を見つめた。

その姿が少し面白くて、小さく笑いながら料理を作るのを再開。


「いえ。 別に悪い意味じゃないんですけど、
 レオンさんも学園祭に行ったりするんだなぁって」


話しながら流し台で卵を割り、皿に落とす。

空になった卵の殻は流し台の端にセットされていた
三角ゴミ箱の中へと放り込んだ。


「フフ、察しの通り俺は祭りは好かん」
「でも見に行くんですね?」
「・・・気になる連中がそこに居てな」
「へぇ」


背後に構えてある席に座ったまま、
私の質問に少しの溜めを入れてからレオンさんは返事をよこした。

今のはちょっと意味深な溜めだったな。

学園祭・・・学園祭かぁ。

そういえば数年くらい前から、学園祭には興味があった。
しかもジェニス王立学園ともなればリベールきっての有名学園。

ともなれば規模も大きいだろうし、さぞ賑やかなのだろう。

・・・数秒の思案。 手の動作を止め、振り返って彼を見つめる。


「え、っと・・・ お邪魔でなければ、
 私もその学園祭に連れてってもらっても・・・?」


レオンさんは少しだけ私を見て、また正面へと目線を変えた。


「・・・まぁいいだろう」
「! ホントですか!?」
「嘘は言わん」


思わず両手を合わせて小さく飛び上がる。
思いがけず許可が下りた。

正直望み薄だったにも関わらず。 物は試し、口に出して言ってみるものだ。

楽しみだ、王立学園は昔から気になっていた。
レオンさんはもう一度私に視線をやり、見つめていた。


「・・フィアナは、ルーアン地方に行くのは初めてか?」
「ルーアン市には1度だけ。 でも王立学園は初めてで、明日が楽しみです」


そう告げる私に、彼はいつものようにフフ、と笑った。


「来るのはいいとして、ルートはどうする?
 クローネ峠を越すなら、今出発しなければ間に合わないぞ?」
「え」
「・・・・・」
「・・・ふ、船とか?」







学園祭は聞いていたように一般解放だった。
門が開く前から沢山の人が、門の前で待っている。

きっと私みたいに、学園祭に初めて来た人だとか、
生徒の家族の人とか・・遠くから来た人も居るようだ。

立派な校舎と、出店の客引きで威勢のいい生徒の声を聞きながら
ぐるりと王立学園の庭を巡った。


「へぇ・・・国内屈指の学園は祭まで一味違いますね」


思わずそんな感嘆した声を口に出してしまうほどだ。
予想より賑やか、予想より大勢の人が居る。

ここ数日はずっと拠点にこもりっきりだったから、
人とすれ違うだけでなんだか不思議な、懐かしい気持ちになる。

立派な校舎の方を一目見て、私は決意した。
1つずつ全部網羅しよう。

軽い足取りで校舎へ向かい、中に入っていく。

何はともあれ待ちに待った学園祭。
言ってしまえば数年前からここの学園祭には興味があったのだ。

レオンさんとは目的の劇が始まるまでは
別行動という話になったので今は居ない。

まぁそういう人ですし、あんま気にしてもいないけれど。

乙女心は傷つきました、なんて冗談かましたら、
「あのな・・」と呆れ気味に返されたことは余談中の余談だ。

校舎に入って階段を上って行く途中、少し年下だろう3人組とすれ違った。

先頭を歩くオレンジに近い茶色の長いツインテールにした髪に惹かれ、
思わず足を止めて振り返る。

振り返ればその子の後ろには王立学園の生徒の女の子と、
もう1人男の子と楽しそうに話をしながら歩いていった。

・・・ 彼女達も巡ってる最中かな。
お互いによい学園祭を。

心の中でそう唱え、目前の階段へと足を掛けた。







劇の開幕直後、彼はやってきた。

入口の横で立って劇を見ている私を見つけて、
舞台の上を見ては「間に合ったか」と一言沿えて。


「まだ始まったばかりですよ」
「そうか」

「遅かったんですね?」
「フ、撒くのに手間取った」
「?」


王立学園ともあろう場所で何の発言ですか、それは。
もしかしたら聞き間違えたのかもしれない。 多分。

それ以上は深く追求せずに、劇の方へと視線を戻した。

舞台中央で姫役をやっているのは男の子のようだ。
彼が少しだけ目を細めたのを、視界の端で捉えた。


「・・・あの姫役の彼ですか?」
「・・・・」
「・・失礼。 聞かなかったことに」

「お前の態度次第ではいずれ話してやる」
「・・・では待ってますね」


小さく笑って舞台で行われる劇を見る。

あ、あの騎士の2人はさっきすれ違った子だ。
髪は下ろしているが、あの赤い騎士の方はツインテールの子だ。

・・・・

順調に劇は進み、姫セシリアが息を吹き返す。

幕が閉じて、ほっと息を置く。
見る立場なのに一息置くというのも不思議な話な気がした。

ふとすぐ側で、 フフ、といつもの含んだ笑みが聞こえた。


「やはり最後は大団円か。 だが・・・それでいい」


そう言って舞台に背を向けたレオンさんに、
あら、 と引きとめるように短く声を出した。


「もう帰るのですか?」
「・・そうだな。 直に門も閉じるだろう」
「そうですか。 では、帰りましょう」


拍手を送る観客達の後ろで、そっと踵を返した。

良いシナリオに良い劇。 良いエンドでした。
目を伏せて心の中で感想を送る。


「わざわざ見に来たかいはあったか?」
「えぇ。 楽しかったです」
「・・・そうか」


紅騎士、ユリウスの残した言葉がふと頭を過ぎった。
『今日という良き日がいつまでも続きますように』

・・・・私にとっても今日という1日は良き日だった。
女神に感謝を、そして彼にも感謝を。





 
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