小説

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結社を知る少女との今後



「・・・・」
「・・・・・」


レオンさんは、言い切ったように瞼をずっと閉じていた。

ほんのりと香る湖は少しだけ波立っていた。
足に浸かる水が冷たくて気持ちいい。

良い天気。 それなのに、どこか雨雲が見えていて。
まるで今の雰囲気を目に見える形で表されたものかと思うほど。

彼が話した内容を思い出して一言、小さく呟いた。


「・・・難しい感じですね」
「・・・思ったより大人しいな」
「え?」


私が呟いた後、即カウンターのように間隔開かず彼は口を開いた。

さっきまで瞑られていた瞼は開いており、
レオンさんは座る私を見下ろしていた。


「犯罪組織と聞けば流石に逃げ出すかと思ったが」
「結構驚いてはいるんですけど・・・取り乱すことは少ないです」


自分で言うのもなんですけどと笑えば、彼は少しだけ間隔を溜めて、
「そのようだ」とだけ呟いて、湖の方にと目を向けた。

流石になんとも思わないわけではない。
意外だった気持ちの方が強い。


「そんな組織にいる貴方が、どうして私を助けたんですか?」
「・・・いや、あれは消去法だったというか・・」


困ったように瞼を伏せ、呆れ気味に髪を掻き上げるレオンさん。

放置だって然程難しくなかった、いや。
寧ろその方が手間要らずだったはずだ。

それなのに拾って看病までしてくれたそう。 意外と呼ばずなんと言う。


「半分くらいは気まぐれだったと思うが」
「はい」
「この展開は想定していなかった」
「ふふ、ごめんなさい」


笑いながら謝れば、彼は再度呆れたように息を吐き出した。

見上げるのをやめ、私も湖の方へと目線を変える。
この拠点はどうやら不思議な装置で辿り着きにくくなっているらしい。

聞けば聞くほどとんでも集団のようだ、『身喰らう蛇』という組織は。


「・・・お前の意思は変わらないのか?」
「そうですね。 許されるのならばここに居たいです」
「会って数時間しか経たない俺個人の印象だが、
 お前は悪人には見えないし、なる気もなさそうだ。 何故そこまでする?」


落ち着いた声のトーンが耳に入る。
至極当然な問いに小さく、ふふ と笑ってしまう。

湖に浸かってる足を揺らすと湖の表面、波紋が広がっていく。


「くだらないって言われそう」
「・・・それほどくだらないのか」
「あ、いえ。 私にとっては一大事なんですけど」

「他人には言えない内容か?」
「あー・・必死こいて隠したいわけでも」
「・・・ならば内容によっては置いてやる。 言え」


・・これは言わなければいけない雰囲気。

若干感じる強制力に苦笑いをしながら、
隣に立ち私を見下ろすレオンさんを見上げた。

日射しに当たるアッシュブロンドの髪がとても綺麗だ。
その日射しの眩しさに、少しだけ目を細める。


「一目惚れなんです」
「・・・・・?」


突然の一言にレオンさんは疑問符を浮かべる。


「一目惚れしちゃったんです。 レオンさんに」
「・・・・はあ」


返って来たのは溜め息とは少し違う、淡白な一言だ。

日射しの眩しさにまた湖にと視線を戻した。
後追いで少しだけ頬が熱くなる。

最初の告白がこんな形で少々不思議な気分だ。


「なんと言えばいいのか」
「はい」
「・・予想より遥か斜め上の理由だった」


直接見てはいなかったけど、多分彼は困った顔をしていたと思う。

長く薄い溜息を吐いたのを聞きながら、はは、と小さく笑った。


「別に振り向いてほしいとかそんなんじゃなくて。
 あ、もしそうなってくれたら嬉しいですけど」
「・・・・ああ」

「恥ずかしながら私、今まで恋ってしたことなくて。
 ・・初めて好きな人ができて、自覚もあるのに
 すぐに離れるのは勿体ないなぁ、って 思って」


・・・だから、本当に、傍に置いてくれるだけでいいんです、けど。

手の平を指先だけ合わせて、小声で呟く。

言ってみたのはいいもののどうしよう。 流石に気まずさが残る。

まぁ帰されたら帰されたでそこまでで、うん。
無茶を言っている自覚はあるし仕方ないけれど。

少しだけ震える私の肩に手が乗った。


「そこまで怯えるな」
「あ、 ・・すみません」
「理由は分かった。 ・・・善処はする」
「・・・・えっ」


思わず顔をあげる。

肩を叩いた時に動いたのか、いつのまにやら、
レオンさんはしゃがんでいて目線が近くなってた。


「・・・追い返さないんですか?」
「仕事の邪魔をしたら追い返すかもな」
「きょ、極力気をつけさせていただきます・・・
 でも、いいんですか? レオンさんの一存じゃ決められないって、」
「・・まぁいいだろう。 拾った責任もある」


多分、その時の私は、瞬く間に顔色が明るくなったと思う。

はい、と自分でも分かるほどの、明るい返事をして
湖に向けて頬を両手の平で隠した。

それほどまでに嬉しかった。

「居てもいい」という解釈でいいんですよね?
文頭に「邪魔しないなら」が入るけど。


「・・さて。 まだ病み上がりだろう。
 長時間風に当たるのはよくない、そろそろ戻れ」
「あ、はーい」





(・・・ふふ、)
(なんだ?)
(いえ、 なにも)





 
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