小説

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迎えた朝と二度目の会話



照り付けるような明るさに、ゆっくりと瞼を開いた。
目元を押さえながら、ソファから身体を起こす。

明るい方向に視線を投げればカーテンの隙間から、日差しが射し込んでいた。
・・・この部屋、東側だったのか。 道理で眩しいわけだ。

見慣れない一室、が全く見覚えのないわけではなく、
昨夜辺りを見渡して確認はしていたのを思い出す。

深夜、レオンハルトと名乗った彼が座っていた椅子はその場になく、
起き上がって向かいの壁際にあるテーブルに椅子が2つ納められていた。

辺りを見渡したが人の姿は無い。

一体どこへ行ったのかという疑問が残りつつ、額に手を当てた。
手の平を通じての温度は然程高くない。 これなら起きても大丈夫だ。

毛布を剥いで足を下ろす。
そういえば履いていたブーツはどこ行ったんだろう。

ソファから足を下ろすと、側面に私のブーツが揃えて置いてあった。

ブーツの中を少し触れたが乾ききっている。
足を通し、踵を鳴らしながら履く。

ブーツを履く際に屈んでいた身体を起こして、左手奥にある扉に向かう。

扉の前に立って数秒。 驚いたことに取っ手がない。

スライド式を疑い扉に手を掛けたが、なかなか動かなかった。

扉の横に電子機器があり、これでカード認証や暗証番号辺りを入れるのか、
とまで辿り着いたが何も聞いてないし貰ってないし、
テーブル周辺にメモなども置かれていない。


「うーん・・・」


どうやってこの扉を開けるか途方に暮れ始める。
扉はうんともすんとも言わなくて、扉の前を意味もなくうろうろと往復。

ふと、ウィーンと機械音と共にガシャッと音を立てて扉が開き、
突然のことにびくっと肩が跳ねる。


「わ」
「・・・起きてたのか」


開いた扉から現れたのは昨夜見た彼だった。
少しだけ、目を見開いていた気がする。

思わず彼を見上げたまま、ぽかんと棒立ち。

昨夜暗がりだったからよく見えなかったけど、
・・・綺麗な色の髪と目をしていた。 紫色の瞳が凄く綺麗、

ただ何か・・・それは今はいいけれど。


「もう動いても平気なのか?」
「少し頭痛が残ってますけど・・熱は下がったみたいなので。 平気です」
「そうか・・ならばいい」


1つ息を吐いて、彼は部屋の中に入った。

何やらかをテーブルの上に置いた後、無言で動かない私を見つめた。
・・・観察? されてるみたいだ。


「・・・熱も引いたから帰るか?」
「ツァイスにですか?」
「あぁ」


ツァイスに、帰る。 ふとその意味を考え、数十秒迷った。

・・いや、私は。 自覚、してしまったのだ。
あまりにも瞬間的だったが、躊躇わせるには充分すぎる理由だ。


「・・・あの」
「なんだ」
「えっとー・・無理を承知でダメ元でお願いなんですけど、
 もう少しだけ、ここに置かせてくれませんか?」


苦笑いしながら、頬を人差し指でかく。

自分でも唐突な提案しているな、なんて思いながら
レオンさんの様子を見てみると彼の動作が止まっていて。


「・・・・帰りたくない、と?」
「ありていに言えば・・・?」
「・・・よく分からん奴だな」


レオンさんは困り顔で眉を潜める。

そして何を思ったのか、テーブルの上に置いた缶を
2つ持ち、私の前に差し出した。

・・・ココアとコーヒー。


「どちらか選べ」
「・・では、こっちを」


ココアに手を伸ばし受け取る。
レオンさんはコーヒーの入った缶を、プシュッと音を立てて開いた。


「・・・・悩み中、ですか?」
「あぁ。 できなくはないが・・少々面倒だな」


ごくり、とコーヒーを一口立ち飲みのレオンさん。

彼の姿を見上げたまま、そこまでワケアリなのか。 なんて、
変に悟りながらテーブルの椅子を1つ引いて座った。

缶に入ってたココアは冷たかった。





 
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