小説

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目覚めと最初の認識会話



「・・・ん、」


意識が浮上した。

重い瞼を開いて真っ先に視界に入った、暗がりの白い天井と、
視界の右側に映る低い、壁。 壁ではない気がする。

・・・頭がぼーっとしている。
が、ここが私の知る場所でないことを察するのはそう難しくない。

風邪引いてしまって、その日1日ずっと家だったからって、
外の空気を吸いたくて散歩しに街に出て・・・以降の記憶が無い。

あれ、その後どうしたんだろう。

状況確認に少しだけ起き上がろうとした時、
身体に何かが巻かれているのにようやく気づいた。

厚めの毛布、だろうか? 2枚くらい重ねてグルグル巻きにされてる。

頭だけゆっくりと起こしたら、頭痛が響いた。 痛い。

広い一室の端っこに小さな光が明かりとして灯っていて、
暗がりながら状況を視認することは可能そうだ。

どうやら自分が寝転がっていたのはソファの上らしい。
右側にはソファの背もたれが、左側にはローテーブルが。

足元の方まで目線をやれば、毛布がくるめられた私の上に
ベージュ・・・いや、象牙色のコートがかぶせられている。

そしてソファから少し離れた場所に、椅子に座り、腕を組み、足を組み、
アッシュブロンドの髪色の男性が、俯いて瞼を瞑っていた。

気だるさを感じる重い体を身じろぎしながら、包められた毛布を緩める。

・・・自分の服がひんやりしてる。
あぁ、そうだ、雨降ってたんだ。

室内に暖房が入ってることも相まってか、服は予想より乾いている。

上半身だけ毛布を脱ぎ、ソファを横に座る形で彼の様子を伺う。
・・起き上がった私に気付かない。 どうやら眠っているらしい。

・・・・こんな状況で言うのもあれだけど、 綺麗な人だ、

じっと彼を見つめる最中、ぶるっと体が震える。
思わず腕をさする。 え、寒い? 暖房入ってるみたいなのに?

雨の後だ、気温が下がっているのかもしれない。
暖房が入っているとはいえ、このままだとこの人も寒いかも、

毛布越しの足に掛けられていた上着を手繰り寄せ、
毛布をソファの上に置き、足を下ろしてゆっくり立ち上がる。

起こさないように、慎重に。
彼の肩へ上着を掛けた。

瞬間、・・・ぱちりと。
上着を掛けた直後、瞑られていた彼の目が突然開いた。

ドキンと鳴った心臓の音と、びくりと跳ねた肩。
胸の前まで引っ込めた腕。 ついでに一歩後ずさった。

彼は起きた私を見て、驚きもせず一言「目が覚めたのか」と。


「あ、ごめ、んなさい。 寒いかと思って、それで」
「・・・謝らなくていい、やろうとしたことは分かった」


そう言って彼は、私が掛けた上着に袖を通した。
受け取られた安堵と同時に、向けられた視線に少し息を呑む。


「・・俺の心配もいいが、自分の心配をすべきだ。
 熱が下がっているようには見えないが」
「あ、」


その言葉で、やっぱりこの人が倒れた私を助けたのかと確信を得る。

フラつく足に少し力を込めるも、力が抜けてカクンと膝が折れ、
後ろにあったソファへと座り込んだ。

もしかして先程の寒気も、気温ではなく風邪の影響だろうか。

・・・ふと周りを見渡す。

傍にあるローテーブルと、もう1つ高いテーブル。
彼が座る椅子と、向こうにある椅子で合計2つ。

絨毯とタンス、本棚に白い壁。

純粋に綺麗な部屋だと思ったけれど、
ホテル・・にしては家具がしっかりしすぎてる。

ここはどこだろう、とぼーっとした頭で整理。
・・・あぁ、そういえば言い忘れていることがある。


「あの、 助けてくださりありがとうございました。
 えっと・・・ここは一体・・?」
「・・ヴァレリア湖のすぐ近くだ。 説明は後日する」


あ、街の名は言われなかったな。
ぼーっとする頭ながら、濁された部分は拾っている。

私1人を担いでなら、ツァイスからそう離れてはなさそう・・・だけど。


「お名前・・訊いてもいいですか?」
「・・・レオンハルト。 周りはレーヴェと呼ぶが、好きにするといい」
「・・レオンハルトさん・・なら、レオンさんで」


ふと顔が綻んで、小さく笑う。

その矢先、また頭に痛みが走り右手で頭を押さえる。
あぁ、もう。 あちこち調子が悪い、 しんどいタイプだ。


「お前の名は?」
「あ、フィアナ、 フィアナ・エグリシアです」
「・・・フィアナ」


覚えるかのように、私の名前を呟いた彼・・レオンさんに、
鼓動が少し速くなる。 ・・・成程、これは俗に言う。

心の中で苦笑いした私のことなんて知らず、レオンさんは私を見つめる。


「いいからもう少し寝ろ。 これ以上は明日だ」
「・・・はい。 ・・あ、ソファお借りしてます」
「知ってる」


薄く微笑んだレオンさんの表情に、うわ なんて思って思わず口元を押さえる。

頬が熱くなるの感じながら、
ソファに置いた毛布で身体をくるんで寝転がった。


「・・・おやすみ」
「・・おやすみなさい」





 
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