小説

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下見ついでの一方的邂逅



外も暗く、街頭が街中を照らす雨降るツァイスの街の端。


「・・・・」


雨粒がぶつかり音を立てる傘を差したまま、目前へと視線を落とす。

地面に伏せ、倒れているオレンジ色の髪を長く伸ばした若い女性と、
彼女の手から離れただろう近くに落ちた水色の傘。

小降りとは言えない雨は容赦なく彼女へと打ち付けている。
辺りを見渡したが、夜と雨であることも相まって人の気配は皆無だった。

その場にしゃがんで、女性の肩を揺する。


「おい」


・・目覚める気配は無い。
服越しに掴んだ肩がいやに冷えていた。

こんな道端で倒れているなら気絶だとは思うが、
頭部を打ったのだろうか。 確認を取れないのが痛い。

容姿からして若いし突然死ということも早々無いだろうが、と思いつつ
彼女の首に手を当てる。 ・・・脈は打ってた、生きている。

肩の冷えのわりにやけに熱を持った首筋に疑問を浮かべ、
濡れた額へと手を触れればこれがまた熱かった。


「(熱出たまま外出したのか、無鉄砲な)」


このまま雨に当たるくらいなら屋根の下まで連れていくのも考えたが、
寧ろ影になって気づかれないかもしれない。 それもこの人通りの無さだ。

人を呼ぶにしても、今後を考えると自身はあまり人目に付きたくはない。

己の身を見せずに他人に気付かせる、のも日中なら不可能ではないが
そこそこの強い雨でこの人通りの無さ、夜の街の端でどうやって。

近くの窓に石を当てようにもそもそも街の端であるここは、
建物はほとんど無い上に、仮に投げ当てたとして雨音で掻き消されるだろう。

そもそも熱のまま外出とは、家の者が心配しているのでは。
・・探しに来る可能性を考慮すれば放っておくのが正解か?

あいにくと医療には精通してないが、
ただの熱なら放置しても早々命の危険はない、とは思う。

風邪はこじらせるかもしれないが。


「・・・」


大きく息を吐いた。 呆れた。
何故街人1人にここまで思考を巡らせねばならないのか。

傘を差したまま、しゃがんでいた体勢からその場に立ち上がる。
自分が持っていた傘を肩と背中に引っ掛けた。

彼女の傍に落ちている傘を拾い上げて閉じた後、抱かせるように預ける。

その後先程と同じ場所にしゃがんでは、
彼女の肩と膝の裏にそれぞれ腕を通して、女性を持ち上げた。

女性の衣服は随分と雨を吸ったらしく、コート越しでも水が染み込む。

人目には極力付きたくない。
夜の雨の中、熱のある女性を放置もいただけない。

優先事項を並べた結果がこれか。 我ながら呆れる。

下見ついでになんて拾いものだ。
半分くらいは誘拐な気がしないでもないが。

彼女は熱が下がり次第帰せばいい。
後は熱の原因がただの風邪であって重病ではないことを祈る。

更に追加で溜息を吐いた。 呆れた。


・・・アレほどのレベルとは言わないが、多少なりと変装技術があれば
また別の手段を選べたのだろうかと、歩きだす直前ふと思った。



(今日で幾度溜息をついたかしれんな)





 
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