忍足と囲碁

□第3局
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あれから私と忍足くんは、毎日学校でも一緒なのに毎晩電話をして、たまにメールをして、お昼は一緒に食べて、忍足くんの部活が終わるのを待って、毎日一緒に帰っている。
土日はメールや電話だけ。
忍足くんは電話派らしく、しょっちゅう電話してくる。
それでもあれだけ低く落ち着いた声なので、いくら電話しても心地良いもので。
意外と普通の恋人っぽいことをしている。
なんだか自分らしくない。
でも、そんな自分が、今は嫌いじゃなかった。

「おはようさん、俺の彼女の灯ちゃん」
「おはよう、私の彼氏の忍足くん」

なんて挨拶をするものだから、私達が付き合っているという噂はすぐに全校に知れ渡った。
そんなだから、忍足くんも告白されることがなくなり、私も私で結構楽しんでいるものだから、毎日が結構充実していたりする。

今日のお昼休みには、今後の事について話し合う。

「忍足くん、私ね、院生試験受けるんだ」
「院生試験?」
「碁のプロの養成機関でね。今度申し込みに行くんだけど、7月に試験を受けに行くの。それに受かれば土日は毎週研修が入るし、朝から夕方まで連絡とれなくなっちゃうから、よろしく。とりあえず6月はそれに受かるために修行するわ」
「そうなんか。灯ちゃん、プロ目指してんねや。すごいなぁ。わかったで、頑張りや」
「ん。忍足くんは?」
「俺も7月からテニス部の地区予選が始まるし、それ向けて頑張るわ。大会始まったら少し忙しなるかな」
「そっかそっか」

それから、試験ってどんなことするんーとか、テニスの大会のこととかを詳しく話した。
院生試験は、簡単な面接と、プロの先生との対局がある。

「対局って、試合するってことやんな?」
「そうそう」

見込みがあれば合格。
問題は、私には師匠がいないこと。いい先生を見つけないと、ただ1人で棋譜を並べたりネット碁をやるだけじゃいつまでも成長できない。
トリップしてきた私には知り合いもいないから、まずこれをどうにかしなきゃな。

「忍足くんは?うーん、シングルスっぽいけど」
「半分正解。もともとはシングルスプレイヤーやってんけど、氷帝に入ってからはダブルスの方が多いねん。せや、今度パートナー紹介するわ。灯ちゃんみたいにちっこくてかわええんよ」
「わたしちっこくないよ」
「俺からするとちっこいの」

忍足くん、ダブルスなんだ。
テニスの試合も観に行きたいなぁ。

「せやなあ」
「ん、何?」
「来週から6月やん。灯ちゃん、7月から忙しいんやろ?せやったら、次の日曜日、デートせえへん?俺、土曜は部活やけど日曜は1日空いてんねん。灯ちゃん、予定どうや?」
「特にない。いいよ、デートしよう」
「よっしゃ決まりやな。お洒落してきてや?」
「頑張ります」

忍足くんとデートすることになった。
こりゃ本当のカップルだな。
忍足くん、制服でもこれだけ格好いいんだし、私服だときっと更に格好いいんだろうな。
隣を歩いても恥ずかしくないようにしないと。
最近土日は碁会所巡りばかりしていたし、丁度いい気晴らしになる。
たまには碁のことなんか忘れて、中学生らしく遊ぶのもいいかもしれない(25歳だけど)。
中学生ってどんなデートするんだろ。
楽しみだな。
日曜日にデートってことは、土曜日に日本棋院に行ってくるか。
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