忍足と囲碁

□第2局
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お弁当を食べ終え、忍足くんと一緒に屋上を出た。
校内を散歩しながら教室へと帰る。
隣で歩く忍足くんを見てて気付いた。
伊達眼鏡だ。
丸い伊達眼鏡……あれか、ビートルズのファンなのだろう。
彼を見ていると、欠点がどこにあるんだと思わせるくらい、完璧すぎる。
顔も、仕草も、女の子との歩き方も、何もかもが。
沈黙になっても気まずいと感じることはなく、どちらかというと沈黙さえも心地良くて、話も上手い。
そんな忍足くんに、部活の話を振られる。

「神崎さん、部活どないすることにした?俺今日部活休みやから、気になるとこ見学連れてったるよ」
「本当?それは助かります。忍足くんは何部?」
「俺はテニス部」

テニス部?っぽくないなぁ。
確かに体つきはがっしりしているけれど、何っぽいかといわれれば天文学部っぽい。

「テニス部かぁ。天文学部っぽいのにね」
「なんで天文学部やねん。俺、結構強いんやで?ほな、何ができるん?何かやっとったこととか、得意なこととかあるん?」
「得意…うーん、…まあ、あるには…あるけど…」
「ほんま?何やっとったん?」
「うーん、多分言ったら笑われるからいいよ」

今までずっとそうだった。
どんなに真剣に頑張っていても、あまりに地味なそれは、言ったところでどんな反応をすればいいのかわからない、と顔をされる。
だから私は忍足くんにそれを伝えるのを躊躇った。
特にテニスとかそういうメジャーで活発な活動をしている人には余計に言いにくい。

「なんでや?そんな笑われるようなおもろいもんやってたん?」
「おもろい……うーん…まあ私にとってはおもろいけど……」

んん?と顔を傾けてくる忍足くんが男前過ぎて少し戸惑ってしまう。
言うまでその瞳からは解放されないとわかった私は、渋々口を開いた。

「…………碁だよ、囲碁」
「囲碁?うわ、めっちゃ意外や。うち囲碁部あるで。ほな放課後囲碁部見に行こか?」

忍足くんは私が碁をやっていると聞いても、笑い飛ばすなんてことはしなかった。
てっきりなんやそれ、なんて言うかと思っていたから、私は忍足くんの性格を誤解していたようだ。

「意外。なんやそれ、とか笑われるかと思ったよ」
「笑う?なんで囲碁を笑うねん」
「いや……地味な競技だし、いつも人に言うと笑われるんだよ」
「そんなんそいつが悪いわ。真面目に頑張っとることを笑う権利は誰にもないやろ」

本当に私は忍足くんという奴を見くびっていたようだ。
申し訳ない。

「私の見た目ってそんなに囲碁してなさそうかな?」
「んーなんちゅーか…確かに囲碁って結構地味なイメージやからかな。神崎さん地味ちゃうし」
「そっか。そうなんだ。それ言ったら、忍足くんなんか天文学部っぽいよ」
「だからなんでやねん」


「そういえば、煙草のこと内緒だからね?言いふらしたら殺す」
「おっかな。神崎さんこそ、俺の好きな人のこと秘密にしといてや?」
「じゃあお互い様で秘密ね。言ったら本当殺すから」
「だからなんでそんなおっかないねん」
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