もう一度、君と

□第8局
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「あー……やばい……」


7月に入ると、暑さは増していき室内のエアコンは強くなっていく。
プロ試験は無事に書類審査を通り予選の案内が家に届いた頃、私には学校の期末試験が迫っていた。

《何がやばいんです?》

と明るく聞いてきたのは勿論佐為だけれど、お前は何故「やばい」の意味がわかるんだ。

《ヒカルが良く口にしてましたから。それはもう、しょっちゅう》

そーかい。
何がやばいのかと言うと、ここ最近碁ばかりに力を注ぎ過ぎていたのだ。
元より私は天才ではない。
プロ試験が近付いてきたことによりテンションが上がってきたというか、わくわくしていた私と佐為は碁会所に行ったりネット碁をしたり和谷くんにお願いして研究会に連れて行って貰ったり、とにかく勉強を疎かにしていた。
予備校には行っていたけれどそれ以外はからきし。
そんなんだから仮にも東大を受けるというのにこのペースでは良くない。
マジで良くない。
期末テストまで1週間をきっている。
バイトも休ませてもらって、ここ数日は碁は打たずに勉強漬けの毎日だった。
数3と数Cはなんとか大丈夫だ。
予備校でもやっているし、加賀にも教えてあげたりして、自分の復習にもなっていたし範囲分確認は終わっている。
今回化学はなくて、物理ももう大丈夫。
世界史はやばい。
まだまだ暗記が追い付いていない。
英語なんて論外だ。
リーディングもライティングもまだまだ終わっていない。
やっべーよ、本当その一言に尽きる。
ここ最近の私の素行としては、かのクラスメイトぶん殴り事件(まあ殴ったのは加賀だけど)もあるし、先生からの評価はあまり宜しくない。
「あんまりカッカすんじゃねぇぞ!」
というのは担任の櫻井先生からのお言葉である。
肝に銘じております。
私のプライド的に、評判は悪いわ勉強もできないわでは許される訳が無い。
テストの点くらい取れなきゃやばい、マジで。
という訳で猛勉強中です。







という訳でここから暫くの間、私藤原佐為がお送りします。
皆さんお久しぶりです!
佐為でーす!
少し前までヒカルと過ごしていた私にとって咲は、とても大人な女性に感じます。
何にも興味がないように見えて実は好きなことには一生懸命、自分を大切にしてくれている人の為ならどこまでも頑張れる優しい子なのです。
しかし、彼女の学校での生活を見ていると結構誤解を受けているようですね。
あの加賀と仲が良いこともありますしね。
ああいや、加賀も充分いいヤツなんですよ。
それは私も充分わかっているのです。
ヒカルも咲も世話になっていますからね。
咲の気の強さもあるのでしょう。
物怖じしないというか、私と初めて会った時も倒れたりなどすることなく「ついてこい」なんて言えるくらいですしね。
ほら、ヒカルはぶっ倒れて運ばれましたからね。
懐かしいな。
さて、咲は今どうやら古典の勉強をしているようですね。
いつもなら学校やファミレス?というところで加賀と2人でお勉強なのですが今日は彼がどうやらバイトなようで、1人で家で勉強しています。

「佐為〜これどっちに訳すんだっけ〜」

おっと、咲から質問ですね。
咲は調べるより早いと言って、たまにこうして私のわかりそうなところを質問してくるのです。
なので1人で勉強する時は堂々と話しやすいようにとこうして自宅になるのです。

《ここは前にも言ったではありませんか、……》

そして夜の9時頃になると加賀からラインが来て、咲がそれを確認すると数分後に加賀が家にやって来るんです。
ふふ、ラインとかスマホとか、私も大分この時代に慣れましたよ。
咲が沢山教えてくれるので。
加賀が来ると遅めの夕餉を一緒に食べてそこから2時間くらいは2人で勉強するんです。
咲のお母さんが加賀が来る度喜んで山盛りの米を用意するんです。
きっとお母さんも、加賀の咲への想いに気付いているんでしょうね。
そんな笑顔をしています。
私でもすぐに気付いたのに、知らないのはきっと咲だけでしょうね。
勉強中も加賀は咲に意識して欲しくて必死なのに、咲ってば全く気付かなくて。
ああでもそれはヒカルも同じでしたね。
あかりちゃんの気持ちをいつも無碍にして。
今どうしてるかなぁ。
彼女にも随分会ってませんねぇ。
碁、続けているだろうか。
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