忍足と囲碁

□第8局
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「プロ試験合格おめでとう、アキラくん」
パチッ
「ありがとう灯ちゃん」
パチッ
「新初段シリーズ、誰とだっけ」
パチッ
「座間先生だよ」
パチッ
「座間王座?わわ、私苦手」
パチッ


金曜日。
いつものように塔矢家に来ているが、今日はアキラくんのプロ試験合格祝いを行っている。
大人達はお酒片手に談笑なんて楽しんでいるものだから、私達は結局いつものように打っている。
なんなら本当だったら私もあちら側なのだからお酒飲んでわいわいと行きたいところだけど、まさかそういうわけにもいかないし、緒方さんに俺の前以外で酒と煙草は禁止と言われている手前どうにもできない。

お話の通り、今年のプロ試験は辻岡さんと真柴さん、そしてアキラくんが合格した。
真柴さんが合格したことに和谷が納得いかないらしく、散々愚痴っていたのは言うまでもない。
伊角くんに勝ったこともないのに、要は、いちいち嫌味な男なのだ。
私からすると年下だし、はいはいって感じだから特に気にしていなかったけれど。和谷も奈瀬もああだからな、仕方ない。

10月と言えば、この間跡部くんの誕生日があった。
跡部くんって、中学生だよね?
学校で、ダンスパーティーなんか開かれちゃって。
本当、何度も確認したよね、跡部くんっていくつになったんだっけ、みたいな。
それで隣をチラリと見たら、これまたスーツをばっちり着こんでフェロモンをばしばし放つ侑士が立っているものだから、あれ?私会社帰りだっけ、なんて思ったり。
こうしてたまにアキラくんや和谷達と会っていないと、感覚が狂ってしまうよ。
で、跡部くんの誕生日があるがために霞んでしまうらしい、侑士の誕生日が明後日いよいよくるわけだが。

「灯ちゃん、新初段シリーズ観に来てくれる?」
「うん、特に予定とかないと思うし。年明けだよね?結構先だから確定はできないけど」
「そうだよね。うん、来られたら来てね」
「ねぇアキラくん」
「ん、何?」

……同年代の友達と言えばアキラくんと和谷……伊角くんにも聞いてみよう。

「アキラくんだったらさ、誕生日プレゼントって何欲しい?」
「え、僕だったら?うーん……あ、もしかして彼氏さんの?」
「うん、そう。明後日なんだけど、実はまだ何も用意してなくてさー」
「うーん……僕、趣味とか特にないし、囲碁ばかりだからなぁ…」
「えっ、天下の中学生が、欲しいものないの!?」
「(天下って笑)無難にハンカチとか嬉しいかなぁ。手合いにも持って行けるし」
「あーなるほどね。侑士で言うところのタオルとかリストバンドってところか」
「そんな感じだろうね。後は、タンブラーとか欲しいかなぁ。プロになるとね、手合い中に飲み物持ち込めるんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「なんだ神崎!またあの小僧の話か」
「げ、緒方さん……」

せっかく私とアキラくんが話しているところに、既に出来上がった緒方さんが乱入してくる。
アキラくんはニコニコと笑顔で対応しているけれど、私にとっては面倒くさいことこの上ない。

「灯!お前、あんなガキなんてやめて俺んとこ来い」
「えっ!!」
「はあ?何言ってるんです、緒方さん」

顔を真っ赤にさせたアキラくんが可愛すぎる……。
そうだよね。きっと何の経験もないんだろうな。
そして、酔っ払って私を名前で呼ぶ緒方さん。
黙って碁を打ってる時は格好いいんだけどなぁ。

「おい灯。お前もあっちで飲むぞ!」
「は?待って緒方さん!私飲めないよ、一応!」
「煙草も吸うか?」
「名人の前で吸うわけないでしょう!」
「気にすんな、ほら」
「うわっ!」

そう言って自分が吸っていた煙草を私の口へ突っ込む緒方さん。
思わずそのまま吸ってしまい、呆然としているアキラくんに急いで弁解するも、彼は普通の中学生だ。
私達についてきていない。

「いや、あのね、アキラくん。これは緒方さんが悪いのであってね、」
「あ、うん、大丈夫だよ」

何が大丈夫なんだ!

「灯!いいか、男はな、女の体を差し出してもらえるのが1番嬉しいんだよ。下手に物なんかくれなくたっていい」
「ちょっと、アキラくんの前でそういう話しはやめて!」
「あ、大丈夫だよ、僕飲み物とってくるね!」

あーあ、アキラくん行ってしまった……。

「大丈夫だ、灯。不安があるならなんなら俺が先に確認してやろうか?」

酔った緒方さんは止まることを知らず、私に後ろから抱き着いてくる。

「なんの確認だよ!」
「お前、胸は結構あるじゃねーか」
「どこ触ってんだよ!」
「このまま2人で耽るか?」
「耽ません!」
「とりあえず1回抱かせろよ」
「もう!芦原先生ー!助けてー!」
「あはははは!」

こうして夜は更けていく。
あーあ、アキラくんと全然打てなかったー。
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