ながい御話

□身代わりでもact3
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今日、晴れた日に商談があった。
素晴らしく心地の良い風に身を任せながら待ち合わせた屋形船の止まる船着き場に向かう。

細身の...鬼兵隊隊員だろうか。自分と同じように色付きの眼鏡をかけ商人だと分かったのだろう、ペコリと頭を下げられた。

「坂本辰馬殿」
こちらでござる、と中を案内される。
その時船が水面を進みだした。


部屋の前までやってきて、少しの緊張が走った。
以前の自分と同じように商談が成立するだろうか?
とある事故でここ10年間の記憶を無くした坂本は、自分の建てた会社の部下ーーー陸奥に全てのことを教えてもらった。

彼女には本当に世話になった。
その彼女に恩を返すためにも、今回の商談は良い方向に持っていかなくては、と考えていた。

(ふぅ〜、平常心平常心)

深呼吸をし、落ち着かせる。
そうして、目の前の襖が開かれた。




想像していたよりも遥かに小さい頭が目に入った。
女性モノのような、かつ落ち着いた色合いの着流しには幾つもの蝶が待っている。
白い肌に、更に白い包帯のまかれた左目が痛々しい。

自分のことを見上げた彼は、一言なにかを呟いたようだった。

驚いたようにひらかれた瞳は翡翠。
それを覆う睫毛は男にしては少し長めで、
とても綺麗な瞳をしていると感じた。

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