てきすと
□夜兎さんと総督さんのノロケ話
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「きいてよ高杉っ」
バターンッと襖を勢いよく開き、まだ息をきらせながら神威が部屋にはいってきた。
激しく肩を揺らしながら、高杉の側にどかりと腰かける。
「なんのようだ」
「あぶとがね。ひどいんだよっ!!」
悲惨そうに叫ぶが、生憎興味がない。
それなのに神威は勝手に話を進めにいく。
「今日1年の記念日なのに、仕事があるからって、朝から構ってくれないんだよ!!」
「その程度で喚くなんざ、てめぇもまだまだガキだな」
「その程度じゃないよっ、総督さんも記念日忘れられるの嫌じゃない!?」
ほら、宇宙にいるあの人。
と、天井を指差した神威は半べそをかいていた。
「俺らは記念日なんぞ、覚えてる暇なかったからなぁ」
「なんで?」
「明日死ぬかも知れねぇってのに、そんなん決めてられるか?」
そう、攘夷戦争に参加していたあの頃。確か神威とそう変わらない年頃だったあのころには、そんなこと考えたことなかった。
いや、考える暇が、なかったというべきか。
「俺は、アイツが生きていればそれだけで良かったんだよ」
「なにそれー、のろけ?」
「てめぇもさっきからノロケっぱなしじゃねーか」
俺のはノロケなんかじゃないよ!
ぶーっと唇を尖らせた神威の携帯が振動した。
「あ。」
「彼氏だろ?」
「うん...」
「でねぇの?」
どうやら神威は相当ぶすくれているらしい。
電話を取るべきかどうか迷っているのだろう。
「いつまでも意地張ってると、後悔するぞ?」
「総督さんはそうなったことあるの?」
「まぁな...」
だから早く取れ、と促すと恐る恐る通話ボタンを押した。
少しの口論と、お互いの謝罪。
それからなんとか仲直りしたのだろう、清々しい笑顔で
「俺、そろそろ行くねっ」
「おう」
「総督さん。話聞いてくれてありがと」
次は愚痴じゃなくて、ほんとにノロケにくるからと、廊下にでて走り出した。
嗚呼、あんなに浮き足だって。
もう大人になった自分はめったにそんなこと、ないけれど
あの頃は、確かにそうであった。
そんな、頃もあったのだ。
妙に懐かしくなってしまったので、部屋にある黒電話にてをのばす。
古びたダイヤルを回して、空にいるあの人に電話をかけた。