クズ箱

□『白石くんだったら,もっと稼げるよ』
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 vol.2





大きなカウチソファが,応接セットのように中央に置かれているだけの,窓も無い薄暗い部屋。

カウチに浅く座る北山さんは,俺に大きなソファの方に座るようにと勧める。

「どうぞ。」

「失礼いたします。」

俺が座ると当時に会社の概要を話し出す。

「イベントコンサルティングってしってる?」

「まぁ,なんとなく・・・」

「うちは,平たく言えば,企業への人材派遣,事務職,イベントコンパニオン,テレビや映画,プロモーションのエキストラ派遣,ショーモデルの登録派遣,まぁ海外での需要も多いから,海外も行けちゃうよ(笑)。
 なんせ,社長が色々な業界の方と顔見知りなんでね。」

仕事内容だけ聞けば,かなりグローバルのようだ。

「基本情報を登録して,クライアントの求めるモノと条件が一致すれば,現場に行って仕事をして貰います。」

「あ・・・はい。」

「ただし,白石君は学生だし,夜がいいんだよね?」

「はい。出来ましたら・・・」

「うん!夜専用の仕事が一つだけあるけど,やってみる?」

返事を渋っていれば悪びれるでもなく北山さんが俺に聞く。

「白石君って,童貞?」

あまりにも,仕事の内容とかけ離れている事を聞かれて面食らう・・・って,反対に北山さんがチェリーなんじゃないかと聞きたいくらいだ。


まぁ,この歳で童貞なわけがない・・・

だけど,面と向かって聞かれれば,なんて答えればいいのか分からず,頭が真っ白になる。

言い淀む俺を見て「まさか・・・」と北山さんが呟くから,慌てて「いや,大丈夫です!」と答るが・・・一体何が,大丈夫なんだか・・・

「そう言う仕事なんだけど,どう?」

「え?」

「1〜2時間で最低7万,そのうち2万は会社へのリベートだから,手取りは最低5万から」

「5万!?」

夜限定の“そう言う仕事”で,手取り5万と言われれば,絶対危ない・・・と言うよりも,妖しい仕事に決まってる!!

「うちは会員制なので,相手の身元はしっかりしている。
 大体が,仕事が忙しくてままならないエリートばかりだし,一見さんもいない。だから,逆に身元の分からない子を相手には差し出せない。」

淡々と話す北山さん。
だけど,そんなに冷静に話す内容じゃないよな・・・

「きちんとした息子さんで,それなりの教養があって,色々と理解のできる頭の良い子じゃないとね・・・」

「はぁ・・・」

って,理解した様に相づちを打つが,全くもって理解なんか出来やしない!!

「それに,ある程度のルックスも必用だしね(笑)
 だから,白石君さえよければ,直ぐに紹介出来るんだけどな。」

「いや・・・」

「白石君なら,10万は下らないから,固定客2名を週一であいてすれば,月64万だよ?」

「64万!?」

正直,目の眩む金額だが,真っ当な仕事じゃない事がよく分かる。

「あいてするって・・・どういう事ですか?」

絶対断るけど,一応聞いてみる。

「せっくす!」

すごく簡潔に言われて,頭にカッと血が上る。

「馬鹿な!!」

取り乱し,叫んでしまう。
だけど,北山さんは,まっすぐ俺を見据える。

「だから聞いただろ,童貞か?ってね」

そう言って,ニヤリと口角をキレイに上げた。


―――――話にならない。

っと,言うより,寒気がする・・・
ほんの一瞬で北山さんの雰囲気が変わった様な気がし,俺の防衛本能がフルに動き始めれば,身体がカーッつと熱くなる。

もう,怖くて仕方が無い。

すごく嫌な雰囲気だ・・・
そして,危険な香りが部屋に漂い,ジワリと変な汗が背中をつたう。

耐えられず汗で滲む手のひらをしっかりと握りしめ,勢いよく立ち上がれば,「失礼します」と小さく会釈しながら足早にドアに向かう。

ドアに手をかけてノブを回せばドアが開かない事に気づき愕然とする。
それは,よく有る,ドアノブと一体型の簡易な鍵だったのに,今思えば,それすらも理解出来ないほど俺はテンパっていた。

ガチャガチャとドアノブを回す,俺の焦る気持ちとは裏腹に,静かに無駄の無い動作でその手を北山さんに掴まれれば,ハッとして我に返る。

次の瞬間,俺より小さく,かわいい顔をした北山さんが,想像も出来ないほどの力で俺を捕らえ,ソファへと押し倒す。

そして衝撃で,息をするのももままならない俺の身体にゆっくりとまたがり,また少し,違う顔で静かに言った。


「俺が教えてあげるっていっただろ(笑)」



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