星矢夢

□蠍の毒
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女の子なら、誰もが一度は憧れるであろう「壁ドン」。
私は今、その壁ドンのせいでピンチを迎えていた。



「だから、何度も言ってるだろう。名無しさんの事が好きだと。何度言えば分かってもらえるのだ?」
「…こ、困ります…」
何度も口説いてくる男がいる。
スコーピオンのミロ。
この聖域では、黄金聖闘士として人々から崇められているミロ。
そんな神々しい男に、壁に手を付かれ、私は身動きが出来ないでいた。
機から見たら、幸せ者なのかもしれないが…。
「ミロ様には、沢山のファンの方がいらっしゃるのでは…?私で無くとも、その方達とお付き合いされては…」
私は、この手の軽い感じの男が苦手だった。
だから、お堅い黄金聖闘士、カミュ様にお仕えしている。
…しかし、カミュ様の親友であるこのミロに何故か好かれてしまって、顔を見る度に、好きになった!付き合え!と迫られている。
軽々しくそんな言葉を吐く人が本当に苦手で、毎回困惑していた。
カミュ様の親友なだけに、無下に出来ないのが本当に悔しい。
「駄目だ。名無しさんに一目惚れしたって言ってるだろ?俺は、俺が選んだ女としか付き合いたくない!」
「あ、あのぅ…。カミュ様が帰って来ますので…」
「…じゃあ、帰って来るまでに名無しさんの返事を聞きたい」
「だから、私はお付き合いは出来ま…」
ミロ様の顔がぐんと迫って来て、その迫力に圧倒されて、最後まで言い切れなかった。
まっすぐに青い瞳が射抜いてくる。
鼓動が思わず早くなってくる。
彼は、何て自信家なのだろうか…。
どれだけNOと言っても、決して受け取ってくれない。
「これでも、俺の事好きにならないのか?名無しさん…」
とても甘い声で呟かれた。
私の鼓動は更にはやくなる。
恥ずかしいほど、大きな音を立てている。
突然ぐいっと後頭部を引っ張られ、ミロ様の唇と私の唇が重なった。
「…いやっ!」
私は、何とか離そうと押し返すがびくともしない。
強引に角度を変えられ、深く口づけられる。
逃げる私をしつこく追い詰めるミロ。
こんなキス初めてで、身体中がとろけそう…。
あんなに軽い奴だと思っていたのに、もうどうでもいいような気になって来た。
「…あっ…」
唇を離された時には、すっかり力が抜けていた。
「何だ?物足りないのか?何度でもしてやるぞ、名無しさん」
口端を上げて、ニヤッとするミロ様。
キスで流されてしまう自分が悔しい。
でも、蠍の毒に犯された様に、この人の魅力には逆らえなかった。
「ミロ様…」
私は力なく、ヘナヘナと座り込んでしまった。
「名無しさん…」
すっと抱きかかえられる。
そして、2度目のキスが降ってくる。
先ほどの情熱的なキスとは正反対の優しく、ゆったりとしたキス。
もう逆らえない。
あんなに苦手だったのに、今は言いなりになるしかない。
私の心、決まったみたい。
「…はあ…ミロ様…」
「これでも嫌か?俺の事」
力なく首を横に振る。
「俺の物になってくれるんだな」
かなり上からな言い草にも私は素直に頷くしかなかった。
「嬉しいぞ、名無しさん」
キツく抱き締められ、わたしはお姫様っけ抱っこをされる。
「あの…何を…」
「決まってるだろ?両想いになったんだから、俺の宮でキスの続きするぞ!」
私は、ふと我に帰り、
「ちょっと待ってください!やっぱり軽い人はいやー!」
ジタバタする私などお構いなしで、天蠍宮へと階段を降りて行くミロ様。
「もう決めた事だ、変えん!それにもっと好きになると思うぞ、俺の事をな」
「うぅ…」
またニヤッと笑い、私はもう観念するしかなかったのだった。
もう完全に、惚れさせられちゃったかな。


END
 

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