≦鬼徹書物・番外編≧ 地獄良いところ、一度はおいで!

□金魚草の下には…
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―――…閻魔庁内、中庭。



「あれ?鬼灯様?」

書類を運んでいた補佐官見習いの柊は、中庭に面した廊下を通る際に鬼灯の姿を見つけた。

釣竿の先に、数十ヶ所穴の空いたバケツをくくりつけ、そこにホースを突っ込んだ遠隔できるシャワーで、水やりをしているらしい。

近くまで進むと、柊が後ろから声をかけた。

「鬼灯様。昼食を取りに行かれたのではなかったでしたっけ?」

「ああ、柊さんですか。そう言う貴方も、昼食を食べて来てくださいと言ったはずですよ。」

一度振り向き、鬼灯は柊を確認すると、すぐに前を向き直して水やりを続ける。

「…はぁ、この書類を片付けてからと思いまして…。それにしても、この時間に水やりですか?」

柊は苦笑いを浮かべて、話題を変えた。

「仕事が忙しいので、こういう時でもないとあげられないですから。」

その鬼灯が水やりをしているものとは…………青々とした茎と葉の上で、前後にユサユサと揺れている………丸々とした赤い金魚…草ッ!?

鬼灯いわく、これは『動植物』らしい。それが、中庭一杯に植わっていて小刻みに揺れいる様は、なかなか気持ち悪い…いや、圧巻な風景だ。

それもこの動植物、動くだけじゃ飽きたらず、たまに鳴いたりもする。

(…………鬼灯様の趣味って…。)

また苦笑いを浮かべる柊に、後ろを向いていたのにもかかわらず鬼灯が「何か?」と顔を傾けて、切れ長の目で一瞥する。

慌てて「いっ、いいえっ!」と視線を泳がす柊。その目が、金魚草の群生の一角に止まった。
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