夢小説「400年の願い」

□9 平穏な一日
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「……おい、入るんならさっさと入れ。 ばればれだ」
「だって入りずらかったし」
 懐かしい部屋なのに、中にいる人物が違うだけで、部屋の様子も変わって見える。
 フェアリーテイルの宴会で本物のレビィに会い、本の解読などに付き合わされ、ナツには喧嘩を挑まれ、カナには絡まれ、飲んだり食ったりのどんちゃん騒ぎをして、ここ、評議院宿舎に帰ってきたところだ。
 夜なので廊下は静か。 部屋の中は暖かく、入るとすぐにドランバルトを無視してベットにダイブした。 もふっと一度バウンドし、埋もれる。
 ドランバルトが資料をかさかさと擦る音だけが部屋に響いた。
 私はしばらくして立ち上がると、背中の魔法陣を描き直してもらうため服を脱ぎ始める。 しかし、シャツを脱ごうと服をめくり腹を出したとたん、ドランバルトに怒鳴られ止められた。
「何やってんだ!?」
「魔法陣描き直してもらおうと思って」
「す、すぐ描き直してやるから、俺の前で脱ぐな!!」
 ドランバルトの前で脱いだら何かいけないことでもあるのだろうか。
 よく分からないけれど、本人は顔を真っ赤にして椅子を投げ出し立ちあがったから、きっと怒っているのだろう。 怒られる理由がどこにあったのかわかんない。
 脱ぎかけた服から手を離す。
「じゃあどこで脱げばいいの?」
 腰に手を当てて姿勢を崩し、ドランバルトを見た。
 ドランバルトの顔が一瞬引きつる。 そして、顔を動かさず部屋を見回した。 しかし、この部屋が一室であることを私は知っている。
 トイレは共同で使うものが各階にあるだけだし、バスルームに至っては、男女で分かれたふろ場が一階にあるだけだ。
 短く舌打ちをすると、頭を掻いて、後ろを向き椅子にドカッと座る。
「いいぞ」
 ふてぶてしく言った。
「変なの」
 カーテンの閉まっている窓の方を向いただけで、何も変わってない気がするのだが。
 意味の分からない男。 ドランバルトの後ろ姿を見ながら心の中で吐くと、服を脱ぎ始める。
 今度はガサガサと、服の布が擦れる音だけが部屋に響いた。
 上半身のみ脱ぐと、脱いだ服を前に当てて隠す。 ベルに教わっただけで、なんでこんなことをするのかは意味を聞いてもよく理解できなかった。
 胸が駄目らしい。 重くて邪魔な上に隠さないといけないなんて、今のところ、この胸に価値を見いだせないでいる。
 ベットの横に置いてあった丸椅子を掴んで、ドランバルトの横に置く。
「おまたせ」
「向こう向いて座れ」
 腕を組んで目を閉じたまま指示される。 いまだに顔が赤い。
 熱なんじゃないかと心配になりながらも、ドランバルトに背を向けて座った。
「あいよ」
「……これはひどいな。 半分以上も消えかかってる」
 冷たい手が背中に触れる。 ただ、魔力の大きさが酷いせいで、すぐに離れた。
「触れただけでこんなに魔力が分かるもんかよ――直すのには時間がかかりそうだ」
「じゃあ私このまんま寝とくから頑張ってね」
「ふざけるな」
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