夢小説「400年の願い」

□9 平穏な一日
1ページ/4ページ

「おじゃましまーす」
「ドゥーシャ!? 良かったぁ〜無事で!」
 扉を開けて入ってきたのは、フード姿ではなく清潔な洋服を身にまとった、紛れもないドゥーシャだった。
 やはり、白、灰、黒に分かれた髪色がすぐに目を惹く。
「マスターマカロフはおられますか?」
「お〜、よく来た。 うちのギルドに入りたいんじゃろう?」
「そんなとこです。 先日はご迷惑かけました」
 マスターの前まで行くと、待ち構えていたミラさんが即座にスタンプを持ってきて、どこに紋章入れたい? と気軽に尋ねる。
 ドゥーシャはそれをする意味が分からないようで「じゃあ、手首?」と簡単に返した。 それを聞いて、ミラさんはドゥーシャの右手首掴むと灰色のスタンプを押す。
「これであなたも正式にフェアリーテイルの仲間よ」
「えっ、これだけ? こんなのでいいの?」
 あたしのときと同じ反応だ……思わず失笑してしまう。
 ナツが若干戸惑っているドゥーシャの肩を組んで、喜ぶ。
「良かったな、今夜は宴会だ!!」
「宴会宴会って、すぐ食べることと騒ぐことに目がいくよな食い意地野郎」
「はぁ!? お前に言われたかねーよ、変態野郎!!」
「まだ脱いでねーよ!!」
「脱いでたら変態でもいいわけ!?」
「あい!」
 ギルド内がいつものごとく騒がしくなる。
 その様子を見て、ドゥーシャは呆気にとられていた。 物が飛んできても棒立ち状態。
「ごめんね、うちのギルドいっつもこんなだから。 驚いた?」
「――いや、楽しそうだなって。 こんなに騒がしいのは、初めてだけど」
 楽しいといってる割に無表情。
 ま、それだけ驚きがあるってことよね。
「あ、そういや昨日、大丈夫だった?」
「?」
「昨日ドゥーシャに紹介したの、実はレビィちゃんじゃなくて変装した誰か――」
「そうだった……もう大丈夫。 評議院とは和解したから」
「え?」
 話の展開が読めない。 どうしてここでその話が出るわけ?
 首をかしげる私を見て、ドゥーシャの目は空を泳ぎ、何か考えると、言葉を選びながら説明する。
「レビィの偽物が評議員と戦って……負けた? から、私は条件の良い評議院と手を組んだ? みたいな?」
「みたいな? って……じゃあもう逃げなくていいの? 魔法陣は?」
 肩をぽんと叩かれ、電流が走る。
「ひゃっ! うう、まだ直してはないのね……」
「今日描き直してもらう予定だから、宴会は長居できないかな」
 しびれた肩を擦り、ちぢまる。
 ドゥーシャの気が抜けていたそのとき、ナツがグレイに飛ばされ、ドゥーシャめがけ一直線で飛んできた。
「あ」
 ドゥーシャは自分に飛んでくるナツを見てわずかに言葉をこぼすと、当たるわずか手前で、ギルド内に強風が吹き荒れた。
 反射的に腕を顔にやると、ドゥーシャの方向から発せられた強風に耐えた。 風の音だけが聞こえた。
「なっ、なにこれ!?」
 叫んだが、自分の声も聞こえない。 幸いなことに、その現象はすぐに収まった。
 転がっていた人や耐えていた皆は体勢を整え、目の前に現れたそれを唖然として凝視する。
「――やっぱ魔法陣ないと加減しずらいなぁ……え、あの、み、皆さん、そんな鳩が豆鉄砲食らったような顔して、どうしたの」
「それはこっちのセリフよ! なんなのこれ!?」
 なんと、ドゥーシャの周りは巨大なガラスの壁に囲まれ、それらはいびつに重なり合い、天井付近高くまで延びていた。 そのすぐ近くには倒れこんだナツがいるだけで、周りの物という物は、先ほどの強風で見事に吹き飛ばされていた。
「こ、これは一体なんだ? 初めて見る魔法だな……」
 勇敢にもエルザは透明な壁に近づいて、コンコンと叩く。
「結界魔法なんだって。 初めて見るのも無理はないよ。 だってこれ使えるの、私だけらしいし」
 パリンッとガラスの割れる綺麗な音がして、透明な壁は崩れて消えた。
 400年生きてるって時点ですごい子だと思ってたけど、これはまた、とんでもない子がフェアリーテイルに入ってきたわね――本人に自覚ないみたいだけど。
 驚き疲れて最終的に、力なく笑うしかなかった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ