夢小説「400年の願い」

□8 差し出された、救いの手
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 冷たい暗闇。 水に溺れたこの感覚。
 前にもこんな体験をしたような覚えがある。
 意識がはっきりとしていき、この場所がそこと同じ場所でないと知ったとき、安堵と混乱が整理の終わっていない脳へ一斉に襲いかかってきた。
 無色透明な液体の中。 体に少しの力も入らず、目を開け、まだ慣れない視界の中、ここがどこかを一生懸命探った。
 目しか動かせずよく分からないが、自分が今、普段着のワンピース一つで液体の入ったカプセルのようなものに入れられ、何かされているのは予想できた。
 視界がはっきりとしてきて、目を疑う。 私が入っているカプセルの向こうで、誰かが蹴られている。
「だーかーらー、あの女を追ってる評議員なら知ってんだろ!? あいつの魔力を極限まで引き出す方法! 吐かないと殺すよ?」
 知らない男に脅迫されているのは、ドランバルトだった。 それも、すでにボロボロだ。 何故反撃しないのか分からない。 魔力不足とは思えないし……
 ふと、壁にもたれてうつむいているフードの人物が視界に入る。 反撃しても、一対二じゃフリっていうことかな、それとも何か、他の理由が? ――考えても、思いつかなかった。
 ドランバルトは苦しそうに顔を歪め、起き上りながら床に血唾を吐くと、その男を睨みつけた。
「俺は知らねぇし、知ったところで、評議員の裏切り者に教える義理はねぇ……!」
 男はその言葉が癇に障ったようで、再びドランバルトの腹に蹴りを入れる。
 ドランバルトは低く声を唸らせ、お腹を抑えた。 当たり所が相当悪かったのだ。
 感情が怒りで満ちていく。
「魔力147から急激に上昇中!」
 後ろから知らない声と、機械の唸る音が聞こえた。
 ドランバルトに暴行をくわえていた男は足を止め、私の方を見る。 本当に見たことのない顔だった。 しかし、その顔はすぐに見慣れた顔へ変貌する。
「起きた?」
 驚いた。 教会まで私を導いてくれたレビィそのものだったからだ。
「ねぇお願いなんだけどさぁ、もうちょっと魔力上げてくんない? ね?」
 手を合わせてお願いするように見上げられる。 むろん、意味もわからずそんなことするわけがない。 否定の意思を睨んで示すと、あっそ。 とつぶやき、ドランバルトの頭を足で踏んだ。
「こいつがどーなってもいいってことだよ、ねぇ!」
「ぐっ――! げほっ、かはっ」
 無意識に頭へと血が上る。 見えているのに守れないこのやるせなさが、私の感情をを不安定に揺らした。
「700……1000……2000を超えました!」
「おっ、いい感じじゃ〜ん」
「駄目だっ! ドゥーシャ、それ以上――」
「うるさいんだよ」
 立ち上がろうとしたところを踏まれ、無惨にも床に倒れこむ。
 抑えきれない感情と溢れ続ける魔力の量で、頭が痛くなってきた。
「3000……5000……この調子だと、装置が爆発する可能性があります!」
 大声で叫ぶ誰かの声に、そいつは反応した。
「何!? 予定じゃあもうここらでとどまってもいい頃だろ! おい女! それ以上魔力を使うんじゃねぇ!」
 カプセルの前に来て喚くが、すでに私には何も聞こえなかった。 頭がひどく痛い。
 男はくそっ! とカプセルを殴ったが、熱っ! と言い反射的に腕を引っ込める。
「女だけ取り出して、もう一回やり直すぞ!」
「無理です! 液体の熱が高くなりすぎて、火傷だけでは済まない可能性があります! それより、早くここから非難しないと爆発に巻き込まれる恐れが!!」
 男は舌打ちをしてフードの男を呼ぶと、急いで私の後ろへ走って行った。 裏口があるのだろうか。
 そのときにはすでに、私の意識は薄れていた。 怒りさえも魔力に飲み込まれ、このまま死ねたら楽だろうな、そんな思考さえ浮かび始めていた。
 そんななか、最後に見えた幻想は、私にほほ笑みかけ手を差し伸べてくれる、優しいベルの姿だった。
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