夢小説「400年の願い」

□7 彼女の話
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「おお、マー坊じゃないか。 久しぶりに会うのぉ」
「よお、ヤン坊。 元気にしとったか?」
 まだ朝の八時だというのに、ヤジマが経営する店は繁盛していた。
「今日はどうずた」
 調理場からカウンター越しに声をかけるヤジマ。 その目の前のカウンター席にひょいと腰かけ、お気楽な表情をしたままマカロフは話題を切り出した。
「一年前に死去したベル・ラウィットを覚えとるか?」
「ああ、特令班の。 いい奴だった」
 ヤジマは食料を切る手を止めず、しみじみと言う。
「じゃあ、そのベルを恩師と呼ぶ女の子のことも、しっとるか?」
 それを聞いたヤジマの動きが、ほんのわずかに鈍くなった。 よく注意してみなければ気づかない反応をマカロフは見抜き、表情を真剣にさせる。
 それからヤジマは、ゆっくりとした口調で始めた。
「あの子のことか。マー坊がそんなことを聞くからには、何かずってんだろな?」
「うちに来たんじゃよ。ま、うちのガキが助けてきたんだがな」
「……危険だ、早く評議院に受け渡した方が良い」
「それも考えたんだが、本人が評議院を疑ってて渋っとるんだ――例えば、自分に危険の及ぶ計画があるとかなんとか」
 順調に野菜を切り進めていたヤジマの手は完全に止まり、閉じていた両目を薄く開いた。鋭い目つきはマカロフに当てられる。本題はここからだった。
「どんな計画なんだ?」
「――あの計画は、わしも反対したんだ。 魔力の底を知らない彼女でも、彼女だからこそ、もっとも人権に害しているとな」
 一間息を置き、周りに聞かれない程度に静かに言った。
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