夢小説「400年の願い」

□6 誰も気づいていなかった
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 どんよりと分厚い灰色の雲が、今にも雨を降らしそうな午後十二時。
 まだ肌に冷たい風が吹いていた。
「ここだよ」
「すごい古びてるね」
 休み休み、ギルドから歩いて小一時間の森の中。
 目の前にそびえる教会は何年も使っていないようだ。 壁や屋根にツタがはりつき、風化して古びているのがはっきりとわかる。
 木製の扉はとても大きく、威圧感を覚えた。
 レビィがそんな扉を軽々と開ける。 ギィイと木の軋む音が、どれだけ重いのかを感じさせる。
 小柄な体系なのに、結構力持ちだな……人は見かけによらないと思わされる。
 わずかに開いた扉から、中が見えた。 中も外見と同じく、ほこりやツタで汚れている。
「この中だよ」
 笑って私の腕を握る。
 ――気のせいかな。なんだか急ぎ過ぎてるような感じが――
 そのとき、後ろで何かの動く気配がした。
「誰っ……誰?」
 レビィの声が低くなる。 そして、必要以上に警戒した。
 何かおかしい。
 しかしそれを考えることより先に、問題が起こってしまった。
 扉前で立ち止まり、二人で鬱蒼とした木々を見つめる。 しばらくすると、音もなく一人の人物が木の陰から出てきた。
「……ドランバルト?」
 分からない、何故か名前が出てきた。
 黒短髪に、左耳だけピアスをつけている。 その耳の近く、左顔面に大きな切り傷があった。
 何故知っているのだろう。 敵というより、良い人、知り合いという印象が強かった。
 ドランバルトは眉間にしわを寄せ、レビィを一瞬だけ睨んだように見えた。
 それから私を見ると、決まったセリフのように、言葉を吐く。
「戻ってこい」
「…………」
 評議員に戻ってこいということだ。 何度この言葉を聞いただろうか。
「自分が普通じゃないことぐらいわかってるだろ」
「……わかってるよ。 お前より、わかってるよ。 評議員が私をどうするかなんてことも」
「それに関してなんだが、ラハールが今、上と取り合ってくれてるはずだ。 俺には何のことかさっぱりだけどな」
「どうせそういって油断させて――」
 私を実験体か何かにするんでしょと言いかけて、レビィが強く腕を引っ張った。
 その腕力がものすごく強く、さっきから覚えていた違和感を思い出した。
 思わずレビィを見る。 顔が恐い。
 無言で腕を引っ張られ、教会に入った。
 扉を閉めるときドランバルトが慌てて「待て!」と手を伸ばしたが、その姿は重い扉によって、見えなくなった。
「レビィ?」
 相変わらず腕を離さないで、俯くレビィ。
「ねぇ、もういいよ。 痛いんだけ――」
 頭に強い打撃を喰らって、痛みとともに、私の意識はぶっ飛んだ。
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