短編

□ローリングコースター
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「ほんま、よぉ食うなぁ……」

彼女の年齢的には、少し背伸びしたホテルのケーキバイキング。

確かに彼女は少しふっくらしてるけど、そんなに食べるイメージもなかった。

「バイキングだもん、いいでしょ」

「責めてへんよ。喜んでんの。連れてきた甲斐あるなぁって」

「ニヤニヤしてないで。ほら、すばるくんも食べなよ」

照れるのかと思いきや、開き直ってこちらにも勧めてくる。

そりゃ、すばるだって甘い物は嫌いじゃないけど……

「お前の食いっぷりで腹いっぱいや」

歯を見せて笑うと、彼女はふっくらした頬をさらに膨らませた。

「せっかく来たのにー。いいよ、私がすばるくんの分も食べるからね」

そう言ってまた嬉しそうに立ち上がり、ケーキをひと通り物色してキラキラ笑いながら戻ってくる。

「ティラミスでしょ、チーズケーキ、シュークリームに、アップルパイ、フルーツタルト。あと、デザートにヨーグルトムース!何度見ても好きな物ばっかりなの〜」

「よかったなぁ」

「ショートケーキとガトーショコラはさっき2個ずつ食べたから我慢したの」

「計画的やな」

「そう。あとパンケーキもあるしね」

「デザートちゃうの、それ、ヨーグルト」

「パンケーキは別腹」

そもそもケーキバイキングにデザートなんて概念からおかしいんだから、いまさら別腹に驚きもしない。

それよりも彼女のこの幸せそうな笑顔。

「ほんと、今回の企画、頑張ってよかったぁ。すばるくんからこんなご褒美もらえるなんて」

アップルパイを口に運んで、しあわせ、と頬を緩める彼女には、当然これが『デート』なんて認識はなくて。

二人の関係にそれを裏付ける確証もないから、仕方ないけど。



みるみるうちに目の前の大好物たちをきれいに片付けて、彼女はようやくゆっくりとコーヒーを飲む。

ふぅ、と満足そうなため息をついて。

「美味しかったぁ」

「よかったなぁ」

コーヒーも美味しいね、と、意外にもそこはブラックコーヒーで。

すばるが思っているよりは少し大人な面もあるらしいことに気付く。

出会って一年以上経つのに、知らないことが多すぎて、知りたいこともたくさんあるのに。

リサーチにリサーチを重ね、甘い物が好きだって知ったから、ご褒美にかこつけて誘った流行りのケーキバイキング。

この計画にはもちろん続きがあって…

「今度は上のディナー行こか」

「……」

高級ホテルのレストラン。

彼女が食い付かないわけがない。

「……ん?ごめん、なに?」

自信満々に言い切ったつもりだったのに、彼女はきょとんと大きな目を細めた。

「お腹いっぱいで眠くなっちゃったね。まだ夕方なのになぁ」

「なんや、聞いとけよ」

「あはは、なんだっけ」

今日彼女が初めて見せた照れ笑い。

まだ早いのか。

もう、時は満ちたのか。

「すばるくん?」

「あのー……あれや。ほら」

さっきはアッサリ言えたのに、聞いてくれてると思うと逆に言えなくて……

「今度な、また……」

「あ!フォンダンショコラ!」

すばるの言葉を遮って、立ち上がった彼女の視線の先には『タイムサービス』のフォンダンショコラ。

思い切った誘いも、彼女の食い気に負けるのか。

「すばるくんも食べる?」

「……いただきます……」

またキラキラ笑いながら、フォンダンショコラを二つ持った彼女が戻ってくる。

「はい、すばるくんの」

「ありがとう……」

「で?今度また、なに?」

終わった話だと思ったところで、次は突っ込んでくる。

思わず苦笑が漏れる。

「また、仕事頑張れよ。散々食い散らかしたんやから」

笑顔で言ってフォンダンショコラをフォークで割ると、トロリと溶けたチョコレートが溢れる。

彼女はすばるのそれを嬉しそうに眺めながら、頷いた。

「うん。次は上のレストランのディナーがいいな、ご褒美」




『ローリングコースター』

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