シュガーでごめんあそばせ

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大きな大きなその屋敷に、人の気配はない。


コツン、コツン、とあえて足音を出してみる。


普段ならやらないそれは、屋敷の白い壁に反響して、思いのほか大きな音となった。


家に帰ればこんなことはできないので、何度も廊下に足音を響かせる。


「ン〜 〜ンン〜♪」


適当な音程の鼻唄を奏でながら、広く長い廊下を歩く。


「んっんー♪」


一番奥の、立派な作りの部屋を見つけ、特に意味はないが喉のコンディションを整えてみた。


そして次の瞬間。


「おっじゃまー」


ノックも足音も何の音もさせず、頑丈なドアを開けた。


「な……」


中にいたのは、華やかな服を着た男女が一組。武装した男性が数人。


「貴様、何者だ!!どうやって入ってきた!!」


「いえー。正門から正々堂々と入りましたー」


しれっ、と言えば、その場の全員が絶句した。


「バカな……ホールには腕利きの傭兵が何人も控えていたはずだぞ……!?」


「こんな小娘の侵入を易々と許すわけがない!」


「私、こう見えても暗殺一家の長女ですからー」


以後ヨロシク、とピースをしてみれば銃を一斉に構えられた。


「嫌だわー、最近の若者は血気盛んでー。リアクションに困っちゃいますよー」


そんなことをぼやきながら、腰のポーチに手を伸ばし、100ジェニーショップで買ってきたトランプの箱から、無造作に一枚取り出す。


「さてー。たまには友人の真似でもしてみますかねー」


裏をめくれば、それは大鎌を携えたピエロの絵柄。どうやら引いたのはジョーカーらしい。


「んー……まぁこういったものは滅多に使わないのでー、ちょっと覚悟した方が良いかもですよー?」


無表情で淡々と警告し、手にしたジョーカーを小さく振りかぶる。


周囲が少しざわめいたが、すぐにそれは嘲笑に変わる。たかがトランプ、とタカをくくっているのだろう。



ヒュッ



風を切る、音がした。
そのすぐ後にドス、と重い音がする。




「ぁ………が…………」




倒れたのは、女性の前を陣取っていた屈強な体格の男だった。


その喉笛には、先程投げたジョーカーが突き刺さっている。


男から流れる赤い血が、カーペットの色を濃くする。


「キャアアアアアアアア!!?」


耳をつんざくような甲高い悲鳴を鬱陶しく思いながら、またケースに手を伸ばした。



「…ぐ……ぎぁ……、……」



トランプが声帯に刺さったのか、男は声を発しない。いや、発せない。


「あっちゃー」


私はそれを見て、少しばかり目尻を下げる。


「やっぱり慣れない得物だと楽に殺せないやー」


一斉に向けられた、全員の青ざめた顔をスルーしながら、手の中のトランプを弄る。



「あいにく私には末弟みたいに獲物をなぶる趣味はないんですよねー
どっかの拷問好きみたいに模擬太陽で人間バーベキューやる気もありませんしー?団長どのみたいに人肉が好物な魚に生きたまま食べさせる気もないですしねー
私のモットーは暗殺は手早く迅速にーですからー」


周囲の顔が青ざめているのは自分の死に方を想像したからだろうか。


それとも、私の目が、口が。
歪(いびつ)に歪んでいたからかしら。




「さぁて…

まずは誰を殺りましょうかねー?」




さて、今日のお仕事の時間ですねー。
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