□BirthdayDate
1ページ/2ページ




 俺、沢田綱吉は雲雀恭弥さんが好きだ。
 そんな、自分でもビックリするような感情に気付いたのはつい最近。でも告白なんてできる筈がない。だって、あの雲雀さんだよ。最強の風紀委員長様、並盛の暴君。…うん、無理だ。だから、諦めていた。
 でも十月に入ったある日、リボーンがこう言ったんだ。

「ツナ、去年は俺の誕生日でお前の誕生日がなかったも同然になっちまったからな、今年は好きなプレゼントをやるぞ」

 鬼の家庭教師が珍しい優しさに驚いたけど、この時、俺に少しだけ欲が生まれた。
 雲雀さんはリボーンのことが気に入っている。だから、コイツの頼みなら引き受けてくれるんじゃないかと思ったんだ。
 かなり恥ずかしかったし、ダメもとなお願いなのも分かっている。
 でも、もしも叶ったら一生の思い出にしようと、俺は思い切って言ったんだ。

「俺…雲雀さんと一日デートしたい!」





 十月十四日。綱吉は、並盛駅の前にいた。
 今日は彼女の誕生日ではあるが、平日なことに変わりはない。学校に行かなければならないが、今日のサボりは家庭教師と風紀委員長公認だ。
 しかも、その風紀委員長雲雀は、今、綱吉の隣にいる。リボーンは綱吉の願いを叶えてくれたのだ。
 その裏では何らかの取引があった筈だが、綱吉はこの際、それは考えないようにした。
 夢のようだった。あの雲雀が自分の横を歩いている。それだけで、綱吉の足下はふわふわと落ち着かない。しかも、雲雀はいつもの学ランではなく、私服だ。黒のシャツに黒のジーンズと、相変わらず色味はなかったが十分格好良い。
 見惚れる綱吉もまた、随分可愛らしい服装だった。今日の為に友人が見立ててくれたものだが、ヒラヒラしたワンピースが自分に似合うのか、綱吉にはイマイチ自信がない。
 しかし、私服で歩く二人の姿は、端から見ればお似合いのカップルだった。

「で?どこに行くの」
「はい!!水族館です!」

 雲雀の問い掛けに、綱吉は必要以上に力の入った返事を返す。かなり緊張していた。
 ちなみに、水族館なのは、偶々綱吉の母がチケットを持っていただけなのだが、デート先としてはなかなか良い場所だろうとリボーンも言っていた。
「ふぅん、そう。じゃあ行こうか」
「あ、はい!」
 返事は素っ気なかったが、雲雀に拒否反応はないようだ。綱吉は安堵する。
 水族館へは電車に乗らなければならない。二人は、駅構内へと向かった。





 暫く電車に揺られること十数分、雲雀と綱吉は海に面した水族館に到着した。
 ここに来るまで、二人にほとんど会話がなかった。雲雀はあまり喋る質ではなく、綱吉はガチガチに緊張していたからだ。
 終始こんな調子かと思われたが、入館して先ず目に入った巨大な水槽と、ゆったり泳ぐ魚達に、綱吉は緊張を少し忘れた。
「わ…あ、すごい…すごいですね。雲雀さん!」
「そうだね。いい感じに群れてるね」
「はい、群れて…」
 ハッとする。まさか咬み殺すなどと言い出すのではと、心配になった綱吉に、雲雀はニヤリと笑って目の前の水槽をコツリと軽く叩いた。
「やらないよ。これを壊すには僕でも手間が掛かりそうだからね」
 どうやら、からかわれたらしいが…
「え、壊せちゃうんですか!?」
 綱吉はそれより、普通の人間ならヒビすら入れられないだろう水槽を、手間が掛かるとはいえ、壊せるらしいことに驚いた。
「僕にできないことなんてないよ」
「ふぇ…やっぱ雲雀さんてすごいです!」
 素直に感心する綱吉の頭をポフリと撫でて、雲雀は微笑む。
「君は面白いね」
 好きな人に頭を撫でられ、嬉しくて照れくさくて、綱吉は真っ赤になる。
 しかしこの後、綱吉はあまり緊張せずに雲雀へ話し掛けられるようになった。
 平日の為に閑散とした水族館は、群れが嫌いな雲雀にはちょうど良い。
「あ、あの魚。面白い顔ですね」
「ああ、あれはナポレオンフィッシュだよ」
「ナポレオン?ナポレオンって顔じゃないですよ〜アレは」
 そんな会話を、弾むとまではいかないものの、和やかに話しながらゆっくり歩いた。
 ずっと、このままいられたら良いのにと綱吉は思う。このデートは仮初めだ。終わればそれまでなのだ。
 しかも、このデートを受けてもらうよう雲雀に話を通す変わりに、リボーンは綱吉にある約束をさせていた。

 その約束を果たせば…

「沢田綱吉?」
 急に黙り込んだ綱吉を、雲雀が覗き込んでいた。
「う、おぅわ!?」
 急に近くなった顔に、綱吉は驚きよろめいた。そのままバランスを崩し、尻餅をついてしまう。
「なにをやっているの、君は」
「うう、すみません」
 雲雀が手を差し出す。それを綱吉が取り、引き起こして貰った。それは極々自然な流れだ。しかし、綱吉が立ち上がっても、手は繋がれたままだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ